Book Review 24-5歴史 #科学革命の構造

 

『#科学革命の構造』(トマス・S・クーン著)を読んでみた。

 

著者は、1922年生まれで、1996年に亡くなっている。ハーバード大学で物理学を専攻。米国の大学で科学史および科学哲学の教鞭をとる。待望の日本語版新版(原著第IV版、50周年記念版の全訳)ということであるが、難しくてななめ読みになってしまう。トロント大学哲学部門教授であった#イアン・ハッキング(『偶然を飼いならす』の著者。拙書『EBMを飼いならす』はこの本のタイトルを参考にした)の序説が付いているので、それを読んで概略をつかみ、これを書いている。

 

一般用語としてのパラダイムは「規範」や「範例」を意味する単語であるが、クーンの科学革命で提唱したパラダイム概念が、今では拡大解釈されて一般化されて用いられ始めた。現在、「パラダイム」は「認識のしかた」や「考え方」、「常識」、「支配的な解釈」、「旧態依然とした考え方」などの意味合いで使われている。狭義には、その時代や分野において主流だった(問題を抱えている)古い考え方に代わり(その問題を解決できる)新しい考え方が主流となることを指す。

本書を有名にしたのは、「パラダイム・シフト」という用語であろう。当初の「パラダイム・シフト」とは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが、革命的に、もしくは劇的に変化することをいう。クーンはパラダイム・チェンジと言っていたそうだ。

 

科学革命は次のような段階を踏んで進行する。

  • 通常科学があり(その時代の通説)
  • 現行の知識分野に未解決のまま残されたパズル解きに献身的に打ち込む
  • パラダイムとなり
  • 深刻なアノマリー(齟齬)が生じ(理論とデータの不一致、難攻不落の難問)
  • 危機をもたらす(通訳不可能性、異なる理論の唱道者間におけるコミュニケーションの限界)
  • 新たなパラダイムが危機を解消する(世界観が変わる)

 

パラダイム・シフトの例として、天動説が支配的な時代は、多くの科学者がその前提の下に問題解決を行い、一定の成果を上げるが、その前提では解決できないアノマリー(惑星のおかしな動き)が登場する。このような問題が累積すると、異端とされる考え方の中に問題解決のために有効なものが現れ、解決事例が増えていくことになる。そしてある時期に、新たな学説である地動説を拠り所にする科学者の数が増えて、それを前提にした問題解決が多く行われるようになる。以後、以上の動きが繰り返される。(Book Review 30-4マンガ で紹介した#チ-地球の運動について-を参照)

他にも、「ケプラーの法則」、ニュートンによる「万有引力の法則 」、アインシュタインによる「相対性理論」、プランク等による「量子力学」、ダーウインによる「進化論」等が挙げられる 。

#カール・ポッパーは「科学は推測と反駁によって進歩する」と主張したが、クーンはさらに反駁後の次の段階を「革命」として強調した。

 

本書は「現在我々の頭にこびりついている科学像」を変えたということである。