Book Review 36-1 殺人 #手紙

 

『#手紙』(東野圭吾著)を読んでみた。本書は犯罪加害者の親族の視点に立って、その心情の動向を丹念に追った作品である。 2001年7月1日から2002年10月27日まで「毎日新聞」日曜版に連載された。

 

著者は、1985年、『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビュー。1999年に『秘密』で日本推理作家協会賞を受賞し、2006年に『容疑者Xの献身』で直木賞本格ミステリ大賞を受賞する。

 

殺人者を出した家族は、世間からどう扱われ、どのように生きてゆけばよいのか。刑務所から定期的に弟や被害者家族へ反省に溢れた手紙が出され、そのことがそれぞれ関係者の胸に波紋を引き起こす。

弟と2人暮らしのTは、弟Nの大学進学のための金欲しさに空き巣に入り、意に反して強盗殺人を犯して逮捕されてしまう。高校の卒業式の2日前にNの元に、獄中の兄Tから初めての手紙が届く。それから月に一度、刑務所の小さなマークがスタンプされた手紙が届くようになる。

Nは進学を諦めて就職するが夜学に通い、努力が認められ全日制に転入となる。大学での仲間と組んだアマチュアバンドは人気となるが、殺人犯の弟という素性を知られることを恐れ、結婚もバンド活動も破綻してしまう。その後困難を乗り越え、兄の存在を承知で応援し続けてくれた女性Yと結婚し、娘にも恵まれた。しかし、就職先の社宅内に兄の噂が広まり、幼い娘がイジメに合う事態となった。幸せをつかもうとするたびに、Nの前には「強盗殺人犯の弟」という烙印が立ちはだかる。何かと支えてくれていた社長から「差別は当然なのだ…」、「自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになる・・・すべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね」、「それでも差別しないといけないのが社会だ。」という言葉。これが現実なのか。正々堂々と生きて行く意味を見失ったNは、獄中の兄に宛てて、「家族のために兄貴を捨てる」と絶縁の手紙を送る。長らく訪れなかった被害者に謝罪に行くと、その息子にも、Tから毎月届いた開封済みの手紙が届いていた。

 

『襲撃』という戦時下で両親を殺された少年の思いを綴った本と並行して読んだ。殺された側と殺した側。一体どうすればいいのだ。