Book Review 13-5戦争を扱った小説 #襲撃

 

『#襲撃』(ハリー・ムリッシュ著)を読んでみた。著者は、1927年オランダ生まれ。父は第二次世界大戦下、ユダヤ人からの没収財産を管理する銀行の頭取を務め、戦後、対独協力者として3年間投獄されている。一方、母はユダヤ人で、母方の祖母はガス室で殺された。1982年、本作を発表し、世界40か国以上で出版され、原作映画『追想のかなた』(1986年)は、アカデミー外国語映画賞受賞。映画鑑賞はDVDがなくVHSでしか手に入らないのであきらめた。

 

人が肉親を殺されたら、どのようになってしまうのだろうか。戦時下で起こった殺人について思いを引きずる男を描写した小説である。時は1945年1月。終戦間近なオランダ。ドイツの支配下にあり夜間外出禁止の夜。6発の銃声が鳴り響く。同僚を密告し続けた親ナチス警視が4軒の家が建ち並ぶ前でパルチザンに殺害された。その死体は始め別の家の前に置かれていたのに、いつの間にか少年の家の前に何者かが移動させている。その事実がナチスに知られるとその家の者は報復で殺される可能性が高い。実際、その家に住む裁判所書記で対独協力者の父、慈愛に満ちたユダヤ人の母は撃ち殺される。警官のピストルを奪って兄は逃走し、消息不明となる。幸いにも少年は難を逃れる。

 

その後、時を経て4つのエピソードが語られる。1952年、1956年、1966年、1981年と。

 

両親が死から逃れるためにはどうすればよかったのか。

家の前に死体を移動させられていなければ、両親は報復としての死からまぬがれたのではないか。何のために、そして誰が移動させたのか。この問いが何年たっても主人公の脳裏から拭い去れない。1981年、偶然、1945年当時4軒の家が建ち並ぶところに住んでいた住民に出会い、事実が判明する。

 

そこでわかったことは、ある命を救うために、別の命が犠牲になるという事実だ。最後に明かされた真実を知り、主人公は何が善で何が悪かわからなくなる。戦争はなんと残酷なものなのだろうか。本書の登場人物の名前は「石」と「灰」を連想するものになっているそうだ。

現在もガザやウクライナの戦火の中で多くの命が失われている。そして残された肉親はその死の影を引きずって生きることになる。