Book Review 26-4ディストピア #虐殺のスイッチ

 

『#虐殺のスイッチ』(森達也著)を読んでみた。

著者は広島県呉市生まれ。立教大学法学部を卒業。大学では自主映画製作集団に所属。1986年テレビ映画製作会社へ転職し、後にフリーになる。オウム真理教信者達の日常を追うドキュメンタリー映画A』を公開。ベルリン国際映画祭に正式招待される。2001年には続編『A2』を発表。山形国際映画祭にプレミア出品され、市民賞・審査員賞受賞。2010年出版の『A3』で第33回講談社ノンフィクション賞受賞。この賞に対し、複数のライターから批判もでている。

 本書では、なぜ大量虐殺が起こるのかを模索している。虐殺の歴史を振り返ると、まず5つの虐殺が挙げられる。

その他にも数えればキリがない。中国の文化大革命スターリンによる大厳粛、オスマン帝国におけるアルメニア人虐殺、日本軍による南京事件、韓国の済州島四・三事件

 

良識ある人々が虐殺に手を染める過程は8つ。

  • 人々を「我々」と「彼ら」に二分する
  • 我々」と「彼ら」にこちら側とあちら側に相当する名前を付ける
  • 「彼ら」を人間ではない存在に位置付ける
  • 自分たちを組織化する
  • 「我々」と「彼ら」の交わりを断つ
  • 攻撃に備える
  • 「彼ら」を絶滅させる
  • 証拠を隠滅して事実を否定する

ただし、一つだけ条件がある。やられる側が少数であるか弱者であることだ。その少数派の集団を、多数派の集団が攻撃する

 

虐殺の核となるのは集団化と忖度である。穏やかで善良な人たちがどうして虐殺に走れるのか。

それを証明しようとしたのが、『ミルグラム実験』である。スタンレー・ミルグラムは、一般市民を集め、渡された設問を別室の学生に伝え、もしも学生が間違った回答をした場合には電気ショックを与えることを命じた。最終的には参加者40人中25人(61.5%)が、最大の電圧である450ボルト(心臓が停止する可能性がある数値)まで電圧を上げ続けた。ナチスの虐殺と同じ構図なので『アイヒマン・テスト』と呼ばれることもある。この実験結果は、ごく普通の人も、一定の環境に置かれたとき、明らかに人を殺める可能性があると推定される。ミルグラム実験は、世界の多くの研究機関や大学で追試が行われ、十分に証明されている。

 

ゴールディングの小説『蠅の王』(飛行機が墜落して漂着した無人島で、最初は助け合っていた子どもたちが、やがて殺し合うまでの過程を描いている)は10代後半の男子がより虐殺に走りやすいことを示唆している。

 19世紀にル・ボンが既に、群衆は指導者の断言・反復・感染による暗示のままに行動するようになると述べている(NHKの番組100分DE名著でも取り上げられた)。そして、現在では、ネットやSNSの普及により、受動的な集団が、時に能動的主体になる。ネットでは匿名で他人を執拗に攻撃しても、自分は安全圏にいることができる。

そこに強力な為政者が現れると、群衆は、ある意味で臨界状態に達してちょっとした刺激で過激な行動を起こす。これが虐殺のスイッチだ。

 虐殺に走らないためには、歴史を知ること、今の位置を自覚すること、後ろめたさを引きずること、自分の加害性を忘れないこと、と著者は述べている。

私たちが今せめてできることと言えば、為政者が隠蔽しようとする不幸な歴史的出来事(虐殺等)を振り返ることではなかろうか。