Book Review 16-8 人物 #大塩平八郎

 

『#浪華燃ゆ』(伊東潤著)を読んでみた。伊東潤は、日本の歴史小説作家・ノンフィクション作家。日本推理作家協会会員。時代小説の文学賞を様々受賞している。

 

大塩平八郎とは何者か。江戸時代の儒学者陽明学)で大坂町奉行与力。汚職を嫌い、不正を次々と暴いた。一方で一部の者からは「水清くして魚棲まず」と嫌悪されてもいた。平八郎は疝気とうつ病もちでもあった。彼を知る者は「畳の上では死ねない人」という印象を抱いたという。

大塩は陽明学の「心即理」、「知行合一」、「致良知」を根本思想に共鳴し『心太虚に帰す』で世直しを目指す。人は太虚(「気」の根源的な状態)に至る努力をしなければならないと考え、大塩は学問を広げることで、人間が本然的に持っている善の心を呼び覚まし、この世から悪を一掃することを目指した。貧しい者にも教育を施すことで、そのうちの何人かは何が正しく何が悪いかを理解し、罪を犯さないようになるとして、私塾「洗心洞」(『易経』にある『洗心』からとった)を開いた。講義は厳格そのもので、門人たちは緊張のあまり大塩の目が見られなかったという。ストイックな生活を送り、夕方には就寝、午前2時に起床と天体観測、潔斎と武芸の後に朝食、午前5時には門弟を集めて講義、その後出勤というサイクルであったそうだ(私は朝3時半に起床、読書と取り溜めビデオ鑑賞、朝食、研修医との勉強会、内科外来、健診、施設訪問、ときにワクチン接種、21時半に就寝)。

 

天保元年、凶作で農民が他国へ流浪。米価は高騰し、餓死者が膨れ上がってゆく。それでも武士階級は平然と年貢を取り立て、従前と変わらず江戸へと廻米を行っていた。そのような飢えに苦しむ庶民をよそ目に、収賄で腐敗する為政者に憤り(仁なく、学なく、情なく)、武装蜂起して大坂の家屋の優に五分の一が灰燼に帰す大塩平八郎の乱を首謀した。この乱が幕府瓦解のきっかけになったとも言われている。享年45。

 

大塩平八郎の生きざまで思うこと。人の成果は、才能(性分)と人との出会い、努力で決まるということだ。本書を読むにつけ、持って生まれた正義感の強い性分で、どう生きても畳の上では死ねない運命のように思える。陽明学に出会い、師と出会い、教育と世直しに勢力を注ぐ。大坂の五分の一を焼いても収まらぬほど彼の体制への怒りは大きかった。死を覚悟で家族や弟子を巻き込み乱に突っ走る。私にはできない決断である。革命家とはそんなものなのかもしれない。

 

「才能」、「人との出会い」、「努力」といえば、NHKBS3で放送された「#翔平を追いかけて」(#Searching For Shohei: An Interview Special/米国・2022)と引き比べてしまう。#大谷翔平選手の好敵手として知られるバーランダー投手の弟(#ベン・バーランダー氏)が来日し二刀流の歩みをたどっている。素晴らしい才能と人を思いやる性分、二刀流を続けさせた#栗山茂樹氏との出会い、皆が浮かれ騒いでいるクリスマス・イヴの深夜1時にバットを振り続ける大谷(悲しいかな、才能がありながらカネと異性に走り大成しない元天才少年たち)。どれが欠けても今の大谷翔平はないであろう。

凡人の私にできることは、世の中を俯瞰しながら小さな目標(#良医の育成と#住民ニーズに応える地域医療)に向かって日々努力を続けるしかない。