Book Review 24-20歴史 #虚史のリズム
『#虚史のリズム』(奥泉光著、2024年)を読んでみた。1100頁をさすがに2週間では読了できず、図書館に返却し、kindleで挑むことにした。著者は『ノヴァーリスの引用』で野間文芸新人賞を受賞。『石の来歴』で芥川賞を受賞。本作で毎日文学賞を受賞。近畿大学教授(2024年3月定年退職)。他、受賞多数。
本作は、敗戦直後の1947年の東京・山形を舞台に、私立探偵・石目鋭二が軍人一家の殺人事件と国家機密「K文書」を追う、記憶と記録が錯綜する超規格外ミステリー。dadadadadadaという不思議なリズムとともに、現実と幻想が混ざり合う物語である。
1947年、東京。探偵を志す石目鋭二は、レイテ島の収容所で知り合った神島健作の依頼で、山形の軍人一家・棟巍(とうぎ)家で起きた元中将夫妻の殺害事件を調査し始める。この事件では、長男夫妻や三男も行方不明となっていた。
石目は、東京裁判の行方をも左右しかねない海軍の機密「K文書」の行方を探る依頼を渋谷の愚連隊から受ける。
事件調査の過程で、戦争の記憶、皇道派、超右派宗教、dadadadadadaという不思議なリズムが作中に挿入され、物理的な現実と精神的な領域が混ざり合う。推理小説の枠を超えた歴史・SF的要素を含む意欲作。
読了途中で「これはいったい何を書いているのか」と立ち止まる。本作は、まさにそういう読者体験を意図的に仕掛けてくる作品らしい。
■ パラレルワールドなのか?
“歴史のもう一つの可能性”を扱っているという意味では、確かにパラレルワールド的。しかし、SF的な「別世界の設定」を楽しむというよりは、
・歴史の語り方そのものがいかに恣意的か
・史実と虚構の境界がどれほど揺らぎやすいか
・語り手のリズムや文体が「歴史」を作り出してしまう
といった、歴史観そのものへの問いが中心にある。
“歴史とは何か”を揺さぶるためにパラレルな構造を使っている小説のようだ。
■ 犯人探しでも神話でもない、では何なのか?
「ミステリーの形式」を借りるが、犯人探しの快楽を目的にしていない。
本作も、事件や謎は“構造”として存在するけれど、それを解決することが目的ではない。むしろ、語りのズレ、文体の反復、歴史の断片の継ぎ合わせ、語り手の意識の揺らぎといった“リズム”そのものが主役。
この作品は、物語の筋やキャラクターの魅力で読むタイプではなく、「語りの運動」そのものを読む小説。
① 文体とリズムの快楽
意味よりも、語りの“揺れ”や“反復”が読者を引っ張る。
② 歴史の虚構性への批評
史実と虚構の境界が崩れ、読者は「歴史とは何か」を考えざるを得ない。
③ 読者の認識を揺さぶる構造
読み進めるほど、何が“本当”なのか分からなくなる。その不安定さこそが作品のテーマ。
④ 奥泉光らしい「知的遊戯」
文学・歴史・哲学・音楽などが混ざり合い、一種の“思考のジャズ”のような読書体験になる。むしろ本作は、“どう読めばいいのか分からない”という状態を読者に経験させるための小説。
評価:★★★★☆