Book Review 30-1マンガ #台湾の少年

 

『#台湾の少年』(周見信・游珮芸著)を読んでみた。出版元の岩波書店は、本書を「台湾発 傑作歴史グラフィック·ノベル」と謳っている。マンガよりもグラフィック·ノベルという表現が適切かもしれない。歴史書や成書では台湾の歴史を勉強する気になりにくいが、グラフィック·ノベルならとっつきやすい。絵本のような画面構成もあり、比較的読みやすい。台湾の近・現代史がよくわかる。岩波書店出版なので良書と思って読破しようとしたが、どこの図書館にも(マンガのせいで?)備えがなくて、道立図書館でやっと借りることができた。

 

台湾語、日本語、北京語の3か国語が色分けで(日本語)表示されている(1895年日清戦争で日本統治となった台湾では学校では日本語を使い、家では台湾語を使って暮らしていた。終戦後、中華民国政府が統治し、北京語が公用語となる)。3か国語がマンガの中で飛び交う世界。

そういえば、台湾を代表する映画監督であるホウ・ショオシュンの映画(長回しワンシーンワンカットの手法が有名)で、高齢者の言葉を若者が中国語で通訳していた。あれは台湾語を北京語にする場面であったのだ。彼の代表作としては、「#悲情城市」(ベネチアで金獅子賞)や、1998年に「#戯夢人生」(カンヌで監督賞)などがある。 再度、鑑賞したくなった。

 

本書に戻ろう。日本統治時代の台湾に生まれ、読習好きの少年として育った主人公Sは、ある読書会に参加したために、中国国民党政府批判分子とされて、無実の罪で逮捕され10年を島の収容所で過ごすこととなった。そこでは銃殺された者もいた。釈放後は児童雑誌を創刊するなど八面六臂の活躍で、台湾の文化に大きな足跡を残す。一言で要約すると、日本統治時代から戒厳令下の時代、民主化を経て現代まで、時代の荒波に揉まれたある非凡な個人の歴史からたどる台湾現代史全4巻である。

 

第二次世界大戦後、台湾は日本の支配からはずれて、中国との軋轢はあったにしても平和な過程を経て現在に至っていると思っていた。第2次大戦時、台湾にも米軍機の空襲があったことをはじめて知った。新たな知識を仕入れるのに、マンガも導入としてはいいのではないかと思った。

最近読んだ作品に第6回金車・島田荘司推理小説賞受賞した『#台北野球倶楽部の殺人』(唐嘉邦著)がある。時代は昭和十三年、日本でプロ野球が発足してまだ三年目の戦前の話。このころはプロ野球よりも東京六大学野球が盛んであったようだ。仲間が集まっての話題の中心は早慶戦と台湾の高雄商業学校のエース兼四番バッター大下弘だった(「赤バットの川上」こと川上哲治と並び称された「青バットの大下」こと大下弘)。六大学のOBが参加して、彼らは大下を自分たちの出身大学にスカウトすべく鍔迫り合いを演じていた。そんな折、会員二人が別々の列車内で不審な死を遂げた。ここから松本清張風の時刻表を駆使したアリバイ崩しのミステリーが展開してゆく。物語の背景に日本統治下の台湾の悲劇が隠されているという。日本のプロ野球の歴史に興味がある者には見逃せない一冊であろう。

その他には、台北の路地裏で私立探偵を始めた元教授が、連続殺人事件に巻き込まれるハードボイルド探偵小説『#台湾プライベートアイ』(紀 蔚然 著)が最近話題になった。