Book Review 27-4ノンフィクション #誘拐
#『誘拐』(本田靖春著)を読んでみた。著者は、朝鮮・京城府生まれ。1955年、読売新聞社に入社。直後から社会部に在籍しエース記者だった。1971年、退社。フリーでルポルタージュを執筆。第6回講談社ノンフィクション賞受賞。2004年、多臓器不全により71歳で死去。
1963年に起こった「吉展ちゃん事件」という誘拐事件を扱ったノンフィクションである。事件発生から解決までの詳細(被害者、加害者、刑事、メディア、それぞれの描写)が記されている。発生当初、電話録音装置もなかったことがわかる。捜査がお粗末で、警察の失策が続いた。犯人の閉鎖的な故郷の様子や辛い過去にも言及している。脅迫電話の声が一般公開されて、小原が犯人に違いないという多数の訴えがあるのに警察は犯人逮捕に繋げていない。
この誘拐事件を参考に小説にしたのが、奥田英朗氏の『罪の轍』である(幼稚で自己中心的な性格の精神科医・伊良部を主人公としたシリーズとは全く雰囲気を異にしている)。東京オリンピックを翌年に控えた1963年。 北海道・礼文島で昆布漁の親方の下で働くUは空き巣の常習だった。地元にいられなくなり、本土に流れ着くと、同じ手口で犯罪を繰り返し、子どもを手にかける残虐な犯行へと至る。事件を担当する捜査一課のOは、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を聞く。 世間から置き去りにされた人間の孤独を、緊迫感あふれる描写と圧倒的リアリティで描いている。
私は奥田英朗氏の小説『罪の轍』を先に読んでいる。それにしても本田靖春氏の取材力に圧倒される。ありとあらゆる関係者を尋ね歩いて、それを文章にしている。これでもかこれでもかというほど、様々な関係者の証言がでてくるのである。
同じ誘拐事件を扱ったノンフィクションと小説を読み比べるのも一興かもしれない。