Book Review 16-6 人物 #和田誠

 

『#夢の砦』(矢崎泰久和田誠著)を読んでみた。小林信彦氏が同名の『夢の砦』を書いているが、それとは異なる。和田誠は1936年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。講談社出版文化賞講談社エッセイ賞菊池寛賞、毎日デザイン賞など受賞。1977年より「週刊文春」の表紙を担当する。タバコ「ハイライト」のパッケージにデザインが採用された。映画『麻雀放浪記』、『怪盗ルビイ』の監督。『お楽しみはこれからだ‐映画の名セリフ』、『いつか聴いた歌』等、私が手元に置きたい本を多数執筆。1965年、雑誌「話の特集」を矢崎泰久氏と創刊する。2019年死去。

 

話の特集」の中核は、反権力、反体制、反権威の3本柱であり、これを芯にして、エンターテインメントに徹しようという方針で、二人が読みたい雑誌を作った。

この本ができるまでの話が面白い。和田誠は30年間ノーギャラでアート・ディレクターを務めたという。その代わり、自分の意見を雑誌にほとんど入れている。「話の特集」をつくったのは32歳の矢崎泰久と29歳の和田誠。船出は苦労が多かったようだが、和田誠は次々にいろいろな人を矢崎氏に紹介し、様々な分野の人たちが集まってくる。グラフィック関係のアーティストは数えきれないほどで、寺山修司谷川俊太郎武満徹横尾忠則らがブレーンになった(後にその分野の歴史を作った人々である)。

川端康成の『#雪国』を様々な人物が言いそうな口ぶりで書いているのが面白い。俵万智は短歌9歌にして、井上陽水は歌詞風にしてAm, G7,E7などとコードまでついている。向田邦子吉永小百合との対談も楽しめる。

自由で、自分や他人を楽しませる本を作ることのできる時代があったのだ。