Book Review 28-2 SF #犬の心

 

『#犬の心』(ミハイル・ブルガーコフ著)を読んでみた。

 

作者は20世紀ロシア文学を代表する小説家・劇作家。レーニンの死から一年後に執筆。 1987年のペレストロイカまでソ連国内で62年間発禁。 現在はロシアの高校生の必読作品となったという。当時のソ連への痛烈な批判と皮肉を込めて書かれた小説で、シャリコフ(下垂体を移植されて人間になった犬)を粗暴な人間として描くことによってスターリンを批判しているようだ。

 

舞台は1920年代のソ連。野良犬(犬コロ)が医師に拾われる。この医師は、実はホルモン研究とアンチエイジングの世界的権威であった。そしてある日突然手術を施されて犬は人間に改造されてしまう。さらに犬は住宅委員会の幹部に洗脳されて俄か共産主義者に成長する。人間の睾丸と脳下垂体を移植され共産主義者として蘇ったシャリク(犬コロ)が、執刀医と繰り広げるバトル。

本書の肝は、「研究者が自然の摂理に従って手探りで研究を進める代わりに、力ずくで問題をこじ開けてしまった」という粗筋を読みかえて、「ソビエト政権は共産党が自然の摂理を歪めて力ずくで作り上げた社会制度である」となると本書あとがきで述べている。

このような歴史的な事項を扱うSFについては、最低限の歴史的事件の背景(ロシア革命)や人物(レーニンスターリン等)についての知識が必要であることを痛感した。

 

ソ連批判と言えば、『#ドクトル・ジバゴ』(ボリス・パステルナーク著)を思い出す(最後に辿り着くまでに居眠りをしながら何度も戻りながらビデオを観た)。ロシア革命の混乱に翻弄される医師と恋人の運命を描いた大河作品である。本書はロシア革命を批判する作品であると指弾されたためソ連国内では発表・出版はできず、イタリアで刊行されたという。ノーベル文学賞の授与を、ソ連共産党ソ連の作家同盟から著者を除名・追放すると脅迫して受賞の辞退を迫った。やむなく受賞を辞退したが、ノーベル委員会はこの辞退を認めず、一方的に賞を贈ったそうだ。このため公式に受賞者として扱われている。ソ連国内での発行禁止が解けるのは、『犬の心』と同様にペレストロイカの時代1988年である。

 

話のついでにソ連映画ベスト100を検索してみた。以下は私が観た作品。

ソラリス』(アンドレイ・タルコフスキー監督)。

宇宙ステーション「ソラリス」にやってきた心理学者はそこで不可解なことが起きていることを知る。ソラリスで活動する研究者たちは皆、精神疾患に苦しんでいた。そしてやがてそこに死んだはずの妻が現れるようになる。このSF映画は今でも多くの監督や芸術家にインスピレーションを与えている。

 

戦艦ポチョムキン』(セルゲイ・エイゼンシテイン監督)。

映画史の教科書。エイゼンシテインが、1905年に起こった第1次ロシア革命をテーマに製作した作品で、映画では傷んだ肉を食べさせられるのを拒んだ水平たちが反乱を起こした事件が描かれている。最も有名なシーンはオデッサの階段での虐殺シーン。乳児を乗せた乳母車が階段を駆け下ってゆく。恐怖の顔のモンタージュ

 

戦争と平和』(セルゲイ・ボンダルチューク監督)。

1812年ナポレオン戦争を背景にいくつかの家庭の物語を描いた(アカデミー賞を受賞)。

 

『犬の心臓』(ウラジーミル・ボルトコ監督)。本書も1988年に映画化されている(未鑑賞。以前は「犬の心臓」という題名であったが、本書の訳者が「犬の心」と改名した)。10位にランクされている。

 

『ストーカー』(アンドレイ・タルコフスキー監督)。

ストーカーと呼ばれる主人公は、厳重な警備の目をかい潜って、命がけで、隕石が落ちて出来た立ち入り禁止ゾーンへ人を案内している。あるとき、教授と作家と名乗る2人の男性が願いの叶う「部屋」に入りたいと頼んでくる。寓話的なS F小説「路傍のピクニック」を下敷きにしたもの。学生時代に新宿の映画館で鑑賞したが、全く理解できなかった。ほとんど眠っていた。タルコフスキーは眠りを誘う。