Movie Review 3 #こうして僕らは医師になる~沖縄県立中部病院 研修医たちの10年~

2022年12月23日、NHKBSで放送された『#こうして僕らは医師になる~沖縄県立中部病院 研修医たちの10年~』の再放送を2023年5月19日に観た。現在、地域研修で当院に来ている沖縄出身の研修医が是非見たいというのが契機となった。

2012年に沖縄県立中部病院初期研修医たちのドキュメンタリー「こうして僕らは医師になる~沖縄県立中部病院 研修日記」を放送。2022年、10年後の指導医クラスとして活躍する彼らに再度カメラが向かう。

番組に登場する医師たちの原点となっているのが米国式の研修医制度(沖縄での医師不足解消のために導入)。徹底した実践主義で技術を体に沁み込ませ「何でも診られる医師」を育成することを目的とした。そんな臨床重視の研修で腕を磨こうと、全国各地の医学部を卒業した若者たちが今も集まって来る。多分、体力、知力、人間性の優れた若者が応募しているのであろう。今回の映像は、当時研修医だった4人の医師たちに光を当てている。

 

まず、国立広島大学病院の救急集中治療科のN医師。研修終了後、脳外科医となったが、米国に渡り救急医療の道へ。現在、エクモ(体外式膜型人工肺)のエキスパートとして家族と離れて単身赴任で昼夜治療にあたる。

そして感染症内科医になったY医師は中部病院に残って懸命にパンデミックと闘っている。(高山医師の指導を受けながら)病院に限定せず介護施設の連携強化に奔走する。

一方で、N医師は在宅医となって、患者との対話に重きを置き一人一人の生活状態に合った治療を探る。10年前、2年間一人で33%を高齢者が占める離島の医療を支えた。(救急病院初期教育と離島医療研修がセットになっているのだろうか)。地域の人々と密接に関わり信頼関係を築くことで、医療の質をより向上させられることを学び在宅医療の道へ進んだ。患者さんの抱える問題解決のために様々な人的リソースを集めて診療している(慢性疼痛で大学病院では解決できない患者に、鍼灸師や薬剤師の力を借りる等)。

また一方、国立がん研究センターのY医師は、研修医時代から人の死とどう向き合うべきか悩み続け、赴任先の離島であるがん患者と出会ったこと等を契機にがんの専門医を目指した。頭頚部腫瘍内科医として治療と研究に明け暮れる。研究が進まない焦りや葛藤を抱えながらも患者と寄り添い、共にがんと闘う。

専門分野によってアプローチはそれぞれ違っても、各医師が患者の命を扱うという同じゴールに向かって活動している。

私の身近に同じような経歴の医師として、手稲家庭医療センター長・病院総合診療・家庭医療科部長の小嶋一(はじめ)氏がいる。沖縄県立中部病院で研修をして、沖縄の離島伊平屋診療所で診療。その後、ピッツバーグ大学病院で研修。私の在職中から現在まで、札幌医大の総合診療入門の授業で、これまでの経験や医師としての生き方を学生に情熱的に伝えている。

この番組を観ると、医師としての仕事のすばらしさを再認識できる。そして、研修初期の総合的な研修と離島などの地域医療の現場での単独での実践が国民に求められる医師を培っているのではないかと思わずにはいられない。懸念もある。厳しい研修で燃え尽きて脱落した者はいなかったのだろうか。

この番組を医師に限らず、すべての国民が観てくれることを切に願う。