Book Review 9-17医療 #PC/総合診療の最新論文
『#明日からの診療を変える プライマリ・ケア/総合診療の最新論文』(水本潤希著)を読んでみた。著者は2015年、東京大学医学部卒業の家庭医である。
これまで総合診療医(GP)と活動していて、そんな気がするといった事項を論文にしている。オリジナルは米国、英国、カナダ等の総合診療系の雑誌に掲載された70論文である。
- 聴力障害はコモンだが見落とされやすい。疑いのある患者は4人に一人。55歳以上の30%以上が罹患。
- 認知障害がある場合、自己申告・同伴者の申告の感度は低い。できる限り聴力検査をすべきである。
- 緑内障のある高齢者では、1年間に1/4が転倒する。
- 聴力障碍と視力障害がともにあると移動・日常動作が悪化する(ただし、一つだけでは問題がない)。
- 知的障害者は、時間外ケアにおいて職員間で混乱が起こる。
- 自閉症成人患者でGPは様々な場面で困難を感じている。
- 若年知的障害者は複数の疾患が併存することが多い。
- 診療チームの力で障害者の医療アクセスが改善する。
- 障害者はGP受診に障壁を感じている。
- 移動困難な障害があるとがんの適切な診療を受けるのが困難となる。
- 貧血なく便潜血陰性なら、大腸がんの可能性は低い。
- アウトリーチ活動で大腸がんスクリーニングが増える。
- 郵送による便潜血を行うにはスタッフの総力が必要である。
- 便潜血陽性でも精査までに様々な障壁がある。
- がんスクリーニング中止の決定は難しい。大腸内視鏡をするかどうかは消化器内科次第。
- 乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺以外の癌の診断には、紹介ルートが必要である(英国)。「体重減少と嘔気」「体重減少と臨床的疑い」の組み合わせが多い。
- 性的マイノリティには子宮頚がん検診に障壁がある。
- 肺がんの高齢者は、不安やADL低下で移動制限が増す。
- マイノリティは医療現場で様々な差別を受けている。
- 社会的孤立について患者に尋ねても、不快感は生じない。
- 社会的孤立(家族・社会・コミュニティとつながりがない)と孤独(主観的)は別物である。
- GPは性的マイノリティへのケアに及び腰である。
- GPの支持的経験がトランスジェンダーの心理的苦痛を減らす。
- 移民は認知症のリスクが高いが、過小診断される(診断過程に困難)。
- 貧困者は生活を切りつめても内服継続が困難である。
- DV被害女性は、特定の徴候、症状を示す。うつ、不安、違法薬物使用、性感染症、望まない妊娠、頭痛、腹痛、胸痛、慢性痛。
- 薬物中毒者は出所後、医療現場で受け入れられていない。
- 薬物中毒者は回復を「普通」の状態に戻れることであると認識しており、そのためのサポートが必要である。
- 多疾患併存患者は失禁のリスクが高い。有病率:5.95 %。
- 減薬に関するガイドラインがないため減薬は難しいが、有害事象がおこるとGPは降圧剤を休薬するようになる。
- GPは減薬を切り出すことをためらう。特に他の医師の処方した薬剤には。
- 訴えられるという不安が、多疾患併存患者のケアを難しくする。
- 勉強していない医師は不適切な処方が多い(特に抗コリン薬)。試験点数の上位1/4の医師と下位1/4の医師の処方内容を比較。
- 施設入所者の抗うつ薬は止めづらい。
- 糖尿病の新しい推奨は、GPにほとんど影響していない。
- GPのニーズに応える研究は少ない。
- 燃え尽きても頑張るGPは良い結果を出している(燃え尽きを推奨するものではない)。
- 複数の問題を扱う場合、注意書きがカルテに書かれていない。
- GPは、自殺企図はないと答えるよう患者を誘導している。
- 若年2型糖尿病患者(肥満、喫煙、HbA1c高値)は家族から様々な影響を受ける。
- 糖尿病患者のケアの対象には支援者も含まれる。
- HbA1c>10%の患者には2タイプある。治療を受けず、孤立している生活困窮若年者としっかり治療を受け、元気で安定している高齢者である。
- GPは妊娠糖尿病のケアを改善すべきである。
- 重症精神疾患のある糖尿病患者は死亡リスクが高い(HR:1.92)。心血管疾患(HR:2.24)が過小評価されている。
- 血圧管理は患者にとって負担である。
- 女性では冠動脈疾患が過小評価されており、検査が先送りになる。
- 心筋梗塞後の患者のニーズを知ることは重要である。
- プレフレイルは心不全発症の前段階である。
- 男性の頻尿には自己管理が効果的である。
- 予約に来ない理由は様々である(仕事、家族・育児の都合、予約忘れ、交通手段の問題)。
- 高齢者は様々な理由で頻回に救急受診する。非特異的な症状と外傷・中毒が多い。
- 退院後の外来受診は1週間後がよい。3週間以降は再入院が増える。
- ケアを継続することで質が向上するが、一方で同じ医師に診てもらうために待たないといけないことがある。
- 継続ケアでは、有害な処方が少ない。
- 在宅チームケアは、複雑な問題に対して柔軟に対応している。
- 若年在宅緩和ケア患者は、経済的困難を抱えている。
- チーム医療により、重度精神疾患患者のケアの質が向上する。
- 自傷行為を行う若者が受診するには障壁があり、支持的な関係性を築くことが重要である。
- 虐待を受けた患者は頻回にGPを受診する。
- 身体症状症の患者はGPに中心的な役割を期待する。「もう病名探しは終わりにしましょう。何か新しい生活が始められるよう一緒に考えましょう」という会話を。
- 心房細動に対する捉え方に医師と患者でギャップがある。
- スタチンを内服しない理由は様々である(代替療法を希望、副作用の懸念、利点の不確実性)。
- 認知症高齢患者の閉じこもりは死亡ハイリスク群である。
- 認知症高齢者に赤ちゃんのように話しかけると拒否が増える。
- 肺塞栓症はGPによく見逃される。平均3日の診断遅延が起きている。
- 様々な試みが高血圧管理の質を向上させる(スタッフの再教育、電子カルテの活用、モニタリングとフィードバック)。
- COPDは過小診断も過剰診断もされている。6割以上が診断間違え。
- COPD急性増悪の方針決定に、過去1年間の増悪回数、年齢、心拍数によるスコアリングが役立つ。
- 乾癬は湿疹や白癬とよく間違われる。そのため、1年間に局所ステロイド薬、抗菌薬の処方が2倍になる。
- GPは高齢者の終末期を死亡間近まで認識できず、緩和ケアの時期が遅れる。
以上、要点だけを記載したので、詳細については本書またはオリジナルに当たってほしい。