Book Review 12-3 スポーツ ボクシング

 

『#春に散る(上)(下)』(沢木幸太郎著)を読んでみた。朝日新聞に連載され、映画化もされている。元ボクサーが失意後の渡米から40年ぶりに帰国し、青春を一緒に過ごした仲間4人と才能がありながらボクシングをあきらめかけた若者と世界チャンピョンを目指して生きてゆく物語である。

 

著者はルポライターとして『テロルの決算』(大宅壮一ノンフィクション賞)、『深夜特急』、『檀』、『凍』、『キャパの十字架』など数々のノンフィクションを発表。

ボクシングと言えば、強打を謳われた元東洋ミドル級王者カシアス内藤の四年ぶりに再起をかけた人生のノンフィクション『#一瞬の夏』(新田次郎文学賞)を思い起こす。その作品を下敷きにして綴った老トレーナーの老後に生き様を描いている。

 

元ボクサーのHは、若い頃は有望なボクサーで世界チャンピオンを嘱望されていたが、大事な一戦の敗北後、心の傷を負ったままアメリカに渡る。夢が叶わず、落ちぶれた生活に身をやつしたあと、ホテルで働き始める。その後成功して大金を手にするが、心臓発作に襲われるも手術を先延ばしして日本へ戻ることにした。後楽園ホールでのボクシングの試合観戦後、かつて世話になっていたボクシングジム経営者の娘に偶然出会う。その娘Rはその後を継いで若いボクサーを育てている。Hが在籍時にはジムは全盛期で将来有望な四天王がいたが、なぜか一人もチャンピオンになれなかった。Hはかつての仲間の消息を尋ね回る。それぞれに苦難の人生があった。紆余曲折はあったが4人で暮らせるシェアハウスを借りて共同生活を始める。そんな時街中でチンピラたちに絡まれる。Hが叩きのめした青年は引退を考えていた現役ボクサーKであった。Kはそれをきっかけに四人の指導を仰ぐことになる。順調にトレーニングをつんだKは、やがて世界タイトルに挑戦するまでに成長するが、ある日ボクサーにとっては致命的な網膜裂孔が発覚する。

Kは間近に迫った世界戦にどのように挑むのか。世界戦は日延べできないのか。レーザー治療をいつするのか。失明覚悟でそのまま臨むのか。・・・当日、試合は一進一退。さあ、Kは世界チャンピオンになれたのか。

その後、Kは眼の手術を受ける。Hは試合の結果を知り、病室のKを見舞い、Hは帰途につきながら、ふと桜が見たくなって運河の土手に向う。・・・そこで、『春に散る』。

分野は異なれども、年老いた内科医が優れた医師を目指す若き研修医に地域医療の現場でどうように知識や技能を伝えることができるのか。そんなことを考えながら本書を読み続けた。