Book Review 28-1 # SF ゲームの王国

 

『ゲームの王国』(小川哲著)を読んでみた。第38回日本SF大賞受賞、第31回山本周五郎賞受賞。

本書を読む前に、同じ著者の『地図と拳』、『君のクイズ』を読んでいた。『地図と拳』では体温に興味を示し、母親がその興味を逸らすために与えた地図にのめり込む少年。そして話は満州国に展開してゆく。『君のクイズ』では、勝敗を決める最終質問を司会者が読む前に正解してしまう回答者を描く。変わった人物が少なからず登場し、物語の展開が読めない。しかし、読者は何かに惹かれ頁を捲ってしまう。本書を読んでいるときに、『地図と拳』で直木賞を受賞してしまった。然もありなん。

本書は、上下巻からなり、上巻と下巻で内容が極端に異なっている。上巻では、クメール・ルージュ首魁ポル・ポト(サロト・サル)の隠し子ソリヤ(太陽の意)と神童のムイタックが貧村1975年に遭遇する。秘密警察、恐怖政治、テロ、強制労働、虐殺(その数百万人以上)の群像劇が語られる。ここでも奇妙な能力を持った人物が登場する。輪ゴムと会話ができる男。土を食べて土と会話できる男、等。

下巻では、その50年後(ここからSF)。ポル・ポトの失敗事例から何を学び、後世で幸せな国を作るためにどんな政治がよいのか。政治家となったソリヤは、独裁や腐敗のない権力の頂点を目指す。一方でムイタックは自身の渇望を完遂するため、脳波測定を利用したゲーム〈チャンドゥク〉の開発を、天才少年と共に進める。過去の物語が脳波に影響し、それがゲームの進行に影響する。

 

私はSFを普段読まないので、こんなに奇抜な設定でよいのかと、ついてゆけない部分もある。結末を読んでも、何を言いたいのか私にはわからない。キリング・フィールドを基にした歴史小説に、脳科学要素を加えたSF、ということだそうだ。一歩間違えれば殺されてしまう世界で、懸命に頭を働かせて立ち回る生き残りゲームの中で、人間が何を考え、どう感じ、どう行動するのか。

 

 とは言え、現実は小説を凌駕する。ミャンマーの軍事政権下、ロシアのウクライナ侵攻、カンボジアのキリング・フィールド、中国の下放、新疆ウイグルのAI監獄。これらはSFを超えたディストピアかではないのか。