Book Review 18-2 警察小説 #覇王の轍

『覇王の轍』(相場英雄著)を読んでみた。前回レビューした『震える牛』はBSE問題、食品偽装問題を扱った社会派サスペンスであった。著者は、日本の社会の様々な歪を暴き出している。最近ではNHKで、派遣問題を扱った『ガラパゴス』が放映された。

今回は北海道が舞台である。札幌については道庁赤レンガ庁舎、ススキノ、南4条西7丁目とか、行ったことのある場所がたくさん出て来て、親近感が沸く。

表現の問題であるが、JR北海道がJE北海道、北海道新聞が北海道新報、早稲田大学は西北大学となっている。それなのに東京大学だけは東大でなっており、変ではないか?

 

主人公は女性警察官僚であり、急に北海道警の捜査二課課長に異動することになった。「震える牛」シリーズのスピンオフ作だそうだ(読んでいるのに登場人物として記憶にない)。今回は国鉄解体後も多々問題ある鉄道行政に切り込でゆく。国交省の官僚が札幌のビルから転落死した件と医療機器に絡む収賄事件を追ってゆく。北海道を舞台にした「新幹線鉄道利権」を巡るサスペンス小説である。タイトルは、「50年前に田中角栄時代に決められた新幹線網整備計画をいまだに踏襲している(轍)」ことに由来しているようだ。

 

本書を紐解くと、北海道の鉄道行政や北海道新聞、道警のことについての問題点が見えてくる。JR北海道が赤字なのは、貨物(石炭、鉄、農産物)輸送目的であったので、人間輸送は想定されていなかった。事故が多いのは組合問題が絡んでいて、極左御用組合がいがみ合っている結果、妨害工作によって起こらなくてもよい事故を誘発している面もあるようだ。JR北海道の組合を取材した『#トラジャ』によると、2011年9月に自殺したN社長の自殺から約2年4カ月後の2014年1月15日、S社長が遺体となって見つかる。推測するに、他労組との「平和共存否定」という偏狭な方針を掲げ、JR北海道社員同士の分断を惹起してきたJR北海道労組の「異常な体質」と、それと癒着した経営幹部による「歪な労政」によってむしばまれてきた、JR北海道の末期的な姿だった、としている。赤字路線の廃線問題も頭痛の種である。

鉄道から話は逸れるが、北海道新聞北海道警察とがいがみ合い、報復合戦を繰り広げているようだ。北海道新聞は、#北海道警察の裏金問題を追及する調査報道で、数々の賞を受けた。だがその水面下では、道新の経営幹部たちが秘密交渉の末に道警との関係修復を画策し、公権力の圧力に屈して会社は、現場の記者たちを切り捨て組織の延命を図った。本書ではそんな一面も垣間見せる。

 

転落死事件と収賄事件が解決すると思いきや、安倍・菅体制を連想させる警察国家的体質と利権囲い込みの思惑で曖昧模糊とした事案となってしまう・・・

そこに国政選挙が迫り、その結果によっては、少しはマシな結果になるのか・・・