Book Review 9-25 医療 #父がしたこと

 

『#父がしたこと』(青山文平著)を読んでみた。著者は、松本清張賞を受賞しデビュー。大藪春彦賞直木賞中央公論文芸賞柴田錬三郎賞をW受賞。『半席』『本売る日々』など時代小説を執筆。

 

目付の主人公は、小納戸頭取である父親でから御藩主が痔瘻で苦しんでいることを告げられる。在村医のM(フィクション)に麻沸湯による全身麻酔を使った華岡流外科手術を秘密裡に行う計画を立てる。花岡青洲といえば、乳がん手術がすぐに結びつくが、乳児の鎖肛の手術もしたらしい。主人公の息子が鎖肛であり、手術に至るまでの周囲の者たちの苦悩が紡ぎ出される。現代のようにレントゲン検査ができなかったので、病変部位の情報を得ることが難しく、手術のしかたも大変であったようだ(その後のケアも)。ここでMは主人公(息子)の恩人となる。

 

この話の中で、江戸後期の医療事情についても語られる。たくさんの医家の名前が出て来るが、文末にこれはフィクションであると断わりが書かれているので、どこまでがフィクションで、どれが史実なのかわかりにくい。

 

前半に描かれる父親の藩や全体のことを考えての出世を望まない態度には共感でできるのであるが、ラストの数ページの「父親のしたこと」(藩主に尽くす主従関係)は、現代の私からすると納得できない。

 

古事記日本書紀には、イザナギイザナミのあいだに手足の萎えたヒルコが生まれ、海へ打ち棄てられたことが書かれていることに言及している。最近読んだ多和田葉子氏の『地球にちりばめられて』には日本人主人公としてHirukoが出て来る。障害を持って生まれた子供を抱える家族の苦悩や喜びが数々描写されている。

 

本書を読むと、江戸後期から医学がどのような経緯で現代医学に到達したのかを窺い知ることができよう。