Book Review 15-6 時代小説 # 蝉しぐれ
先日、妻を太極拳の講習集会へ車で送って行った際、家の鍵の携帯を忘れたため3時間ほど家に入れず、図書館で過ごすことにした。新聞を読むだけでは時間が余ってしまった。さてどうするか。短編を読むことにして、藤沢周平氏の『蝉しぐれ』を手に取った。時間に制限があるため、最終章の「蝉しぐれ」を読み終わり解説を読むと、どうも独立した短編ではなく一連の物語のようだ。そこには20年後の二人の逢瀬が描かれていたのだから。結局、借り出して最初から最後(蝉しぐれは二度)まで読むことになった。これは藤沢作品の中でも代表的な長篇時代小説のひとつであった。また、言わずと知れた「海坂藩シリーズ」で、海坂藩、五間川、染川町が出て来る。NHKがテレビドラマ化し、東宝が映画化している。2002度には中学3年生用国語教科書に採用されたそうだ。
政変に巻きこまれて父を失い、家禄を減らされた少年主人公の成長や、彼を慕う隣家の武家の娘との淡い恋を描く。話は例にもれず、藩主家の家督相続問題や流血を伴う派閥抗争が描かれる。抗争の敗者には、切腹・隠居・減石・領外追放が待っている。
主人公の剣術修行、他道場との対抗試合、師が考案した秘剣の伝授などが語られ、最後は当主の側室となった娘の救出とそれに関わる陰謀、刺客との対決等々、興味が尽きない。
最終章で20数年後、主人公が突然側室となった幼馴染から呼び出しを受ける。どうするか迷いながら結局足を向け、・・・後悔と満足の入り交じった思いを抱く。そこには耳を聾するばかりの蝉しぐれが聞こえている。
藤沢周平作品に駄作なし。他の長編小説も読んでみようと決意する。