Book Review 33-2台湾を扱った小説 #真の人間になる(上)(下)

 

著者は甘耀明(カン・ヤオミン)。1972年、台湾生まれ、少数民族出身ではい。長篇小説『鬼殺し』で台北国際ブックフェア大賞などを受賞。本書は金鼎賞、台北国際ブックフェア大賞等を受賞し台湾文化部小中学校推薦図書にも選ばれている。

 

物語は、はじめに台湾原住民族のブヌン族の少年・ハルムトとハイヌナンの子供のころが描かれる。野球好きで、他族のコーチが率いる野球チームに入る。1941年春、都会の中学に進学した二人は甲子園出場を目指して練習に励む日々を送る。だが真珠湾攻撃で、野球どころではなくなってしまう。主人公は、日本人が営む料理屋で働きながら学校に行くことになり、学校や仕事場で日本人、漢人、他の原住民族の学生たちと接する中で、ブヌン族としての自覚を強くし、ハイヌナンに友情以上の思いを抱くようになるがそこに不幸が襲い、それを引きずって生きることになる。
 後半は「三叉山事件」の出来事が中心に描かれる。1945年9月10日、米軍の輸送機が捕虜を乗せて沖縄からフィリピンのマニラへ向かっていた。台湾上空を飛行中、台風に襲われ、台東に位置する三叉山の付近に墜落。この山に詳しい主人公は捜索を頼まれる。悩んだ末、捜索隊に加わり、山の中に入っていく。そして負傷したアメリカ兵一名を偶然発見する。

 

台湾原住民族をネットで調べてみると、10の原住民族があるそうだ。しかし、現在では多数派の漢族との同化が進み原住民の人口が減少し、独自の伝統文化の継承も困難な状況にある(漢民族は、台湾の全人口の約98%を占める)。高砂族というのは日本人が植民地化したときに勝手に付けた名称だそうだ。著者は少数民族出身ではないのに、台湾原住民族かの如く、彼らに代々伝わる伝承を紡いでゆく。台湾原住民族の自然を受け入れて物語にしてゆくところが素晴らしい。ブヌン族の宗教はキススト教のようで、そこが不思議であった。17世紀の初め頃に、オランダとスペインの伝道者がそれぞれ台湾の南部と北部に渡来して、天主教と基督教の布教伝道を行っている。1626年にスペインから天主教が伝来し、翌1627年にオランダの基督教改革派が伝来した。当時、彼らの伝道の対象は漢民族ではなく、平地に居住する先住民族であったようだ。

第2次世界大戦中から戦後の話なので、日本人や米国人がたくさん出て来る。台湾の美しい自然を背景に、その土地で生きてきたブヌン族の心が、主人公に語る祖父の言葉が全篇に散りばめられ、主人公を導いていく(神話的な物語)。野球のコーチからはアミ族の心が、料理屋や駐在所の所長の物語からは日本人の心が主人公の心の中に注ぎ込まれていく。

多民族の文化が出会う小説であり、まれにみる傑作であった。

 

話は横道に逸れるが、我々日本人には現在の中国と台湾との関係に関心が向いているのではないかと思い、ネットで調べてみた。

清朝が中国を支配し始めた17世紀に初めて、台湾が完全な支配下に置かれたことを複数の資料が示唆している。中国は1895年に日清戦争に敗れると、台湾島を日本に明け渡した。1945年に日本が第2次世界大戦に敗れると、台湾島は再び中国のものとなった。しかし中国大陸では、蒋介石率いる国民政府勢力と毛沢東率いる共産党との間で内戦が勃発した。1949年に共産党が勝利し、北京を支配下に置いた。蒋介石中国国民党の残党は台湾に逃れ、その後数十年にわたり台湾を統治した。

中国は、台湾についてはもともと中国の省だった歴史があるとしている。しかし、台湾人は同じ歴史を根拠に、自分たちは1911年の辛亥革命後に初めて建国された近代中国、あるいは1949年に毛沢東政権下で建国された中華人民共和国の一部だったことは一度もないと主張している。蒋介石は台湾に逃れた後、国民党を率いて以来、台湾で最も重要な政党の1つであり、その統治は台湾史の大部分にわたり続いた。

現在、台湾を主権国家として承認しているのは13カ国とローマ教皇庁のみ。中国は他国に対し、台湾を主権国家として承認しないよう外交圧力をかけている。中国は、経済関係の強化といった非軍事的な手段で台湾「再統一」を実現しようしている。台湾経済は非常に重要だ。携帯電話やノートパソコン、時計、ゲーム機器など日常生活で使用される電子機器の多くには、台湾製のコンピューター・チップ(半導体)が使われている。台湾積体電路製造(TSMC)の1社が世界市場の半数以上を占めているとされる。

しかし、なんらかの軍事的対立が起きた場合には、中国軍は台湾軍を凌駕するだろう。中国は米国を除く他のどの国よりも多額の国防費をつぎ込んでいる。海軍力からミサイル技術、航空機、サイバー攻撃に至るまで、膨大な範囲の能力を活用できる状態にある。

 

中国(ITによるディストピア国家)のウイグルや香港に対する強権的政策を鑑みると、台湾(ITを市民目線で活用)には併合されることなく、現状を維持してほしいと心から願っている。