Book Review 15-4 時代小説 # 神山藩シリーズ/海坂藩シリーズ

 

『高瀬庄左衛門御留書』、『#黛家の兄弟』、『#霜月記』(砂原浩太朗著)を読んでみた。架空の藩「神山藩」を舞台とした時代小説シリーズ。それぞれ主人公も年代も違うので続き物ではないが、統一された世界観で物語が紡がれる。

直木賞候補にもなったが・・・。その下級武士高瀬庄左衛門が主人公。50歳を前に妻に先立たれ息子も不慮の死を遂げたため亡き息子の妻志穂と趣味の絵を描きながら過ごす日々。本人の思いとは裏腹に藩中にきな臭い動きが生じ始め否応なくその騒動に巻き込まれていく。

 

神山藩で代々筆頭家老の黛家。三男の新三郎は、兄たちとは付かず離れず、道場仲間の圭蔵と穏やかな青春の日々を過ごしている。しかし人生の転機を迎え、大目付を務める黒沢家に婿入りし、政務を学び始めていた。そんな中、黛家の未来を揺るがす大事件が起こる。その理不尽な顛末に、三兄弟は翻弄されていく。

 

名判官だった祖父・失踪した父・重責に戸惑う息子――町奉行を家職とする三代それぞれの葛藤を描く。18歳のSは、何の前触れもなく致仕して失踪した父に代わり、町奉行となる。ある日、遊里・柳町で殺人が起こる。Sは遺体のそばに、父のものと似た根付が落ちているのを見つけ、また、遺体の傷跡の太刀筋から草壁家が代々通う道場の流派のものではないかと疑いを持つ。

ついでに最新刊『藩邸差配役日日控』も読んでみた。少し肩の力が抜けたのか、北村薫調で日常の謎を追求し、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。

 架空の藩シリーズといえば、藤沢周平氏の「海坂藩シリーズ」が有名である。この度。「海坂藩」の短編を集めた海坂藩全集(上)、(下)を読んでみた。「海坂藩」、「五間川」、「染川町」と記載がある作品が収録されている。作品によって「海坂藩」の歴史・地理的描写に異同がある。しかし藩や城下町、領国の風土の描写は、藤沢の出身地を治めた庄内藩とその城下町鶴岡がモデルになっている。藩名は句誌『海坂』から借用したらしい。

舞台となる藩はおおむね北国に配置された譜代大名の藩であり、江戸時代初期以来幕末に至るまで国替えを経験せずに同じ領国を治めてきたことがうかがえる。家老・中老が執政府を構成し、番頭・組頭などを務める家格の上士や、大目付勘定奉行郡代などが藩政を担っている。

作中では藩主家の家督相続問題や農財政をめぐってしばしば流血を伴う派閥抗争が行われている。江戸初期の庄内藩における酒井長門守忠重を思わせる有力な藩主一族や、江戸後期の本間家を思わせる豪商が藩政をめぐる諸問題に介在することもある。抗争の敗者には、切腹・隠居・減石・領外追放のほか、藩内流刑である「郷入り」といった処分が下される。「郷入り」は実際に庄内藩で行われた刑罰である。海坂藩でも財政の逼迫が進んでいる。藩財政とほぼ同義の農政については、商品作物の栽培奨励や水利事業・新田開発などの意が払われているが、収入増の手段としての重税や飢饉の襲来などにより潰れ百姓もあらわれ、幕末期には大規模な一揆も発生している。借財の対象として領内の商人が台頭し、農地を集積していく状況も描かれる。藩財政の悪化により「借り上げ」が慢性的に行われており、下級の武家の家庭では、虫籠作り・織物・針仕事などの内職が半ば公然と行われている。200年以上これだけ陰謀が蠢く藩であればお取り潰しになっていたであろう。

現在、鶴岡市内・近郊の場所を案内する「藤沢周平ゆかりの地図」がまとめられ、鶴岡市も関連箇所を整備して観光に便宜を図り、2,010年4月29日に「鶴岡市藤沢周平記念館を開館した。

 

藤沢周平の作品では、人がよく死ぬが、陰謀が渦巻いているため、先が読めず、ついページを捲ってしまう。全作品を読みたくなる。

彼の一番の傑作と言われている『#三屋清左衛門残日録』を大活字本で読んだ。家老であった男が隠居したが、世情から超然としているためか、藩内の諸問題が持ち込まれる。優れた平衡感覚の持ち主であり、情緒も安定しており、当事者や藩のことを考えながら問題解決にあたる。

私も老齢の域に入り、三屋清左衛門のように周りから頼られて、北海道(道南、松前)の地域医療が抱える諸問題解決に一役を担えるとよいのだが・・・。