Book Review 27-1ノンフィクション # 黒い海

 

『黒い海』(伊澤理江著)を読んでみた。

著者は、現在はネットメディア、新聞、ラジオ等で取材・執筆活動を行っている。英国ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。

本書は、日本の重大海難事件史上の未解決事件(事故でなく)である。2008年6月23日、パラシュート・アンカーを用いている漁船(船員は20名)が、千葉県銚子沖で操業中の波も大きくなく天候が良好時に、右舷前方に「ドスン」という衝撃があり、わずかに船体が右に傾いた。7‐8秒後、2度目の強い衝撃で「ドスッ」「バキッ」という異様な音が重なって聞こえた。船体の右傾斜が増し、1~2分で傾きが一気に増して数秒で船は転覆し沈没した。ボートになんとか乗ることができたのはわずか3名。全身が真っ黒になるほどの大量の油が乗組員の行く手を阻んだ。結局17名が死亡した。

事故から3年近くも経過した国土交通省所管の運輸安全委員会が発表した事故原因は、「波」だと結論づけていた。

しかしながら、「波」で説明できるのか。そもそもパラシュート・アンカーは波の影響を受けにくくするためのもので、突然転覆しにくい。また、漏れ出た油の量を一斗缶ひとつ分程度の量でしかないと断定している。加えて、二度の衝撃と異様な音。これらを論理的に説明するには、何らかの原因で船体が損傷したと考えられる。ところが国は、頑なに船体損傷を認めようとしない。

様々な取材の結果、著者が辿り着いたのは「潜水艦による衝突事故」という仮説だった。実は世界中で潜水艦事故が多発しているのだ。「潜水艦による衝突事故」と考えるとすべてが符合する(オッカムの剃刀)。日本の科学者とは何と政権に烏合した集団なのであろうか、と考えるのは私だけか。

日本における事故調査で、未だに原因に疑問を投げかけられている事件(事故でなく)がある。それは1985年8月12日の起こった「日本航空123便(東京発大阪行き)」に起こった墜落事故である。38年たった今も「何かが隠されている」という疑惑が多く残されている。事故原因、事故現場の特定や救助の遅延、さらには、事故現場での異常とも思える遺体状況やボイスレコーダーの一部が非公開にされる等。

運輸省航空事故調査委員会による事故原因の公式発表は、「ボーイング社の手抜き修理(以前に起こした尻もち事故)による後部圧力隔壁の破損が原因」となっている。しかしながら、少なからぬ人たちが、本件は修理ミスに起因する事故ではなく、「外部要因によって墜落させられた事件であり、それを隠すために組織的な隠ぺい工作が行われ、意図的に現場の特定や救出等も遅延された可能性がある」という仮説を提唱している。外部要因とは何か。自衛隊のミサイルの誤発射と考えられるのだ。

根拠や証拠は何か。飛行機にオレンジ色の部品はないはずなのに、現場にオレンジ色の金属片が落ちていた。また、落下前に圧力隔壁の破裂の兆候を乗客が見ていない。事故前に日航機に近づくオレンジ色の物体が発見されている。日航機を追跡するファントム機2機が目撃されている。「真っ赤な飛行機(練習用ミサイル?)」も目撃されている。自衛隊や政府、NHKなどは、御巣鷹山付近に墜落したという多数の目撃情報を無視し、救援活動を意図的に遅らせた(「証拠隠滅」の時間の確保)。航空機用燃料とは異なるガソリンとタールの異臭が充満していた。肝心の圧力隔壁は、発見後直ちに小さく分割されて回収された。ボイスレコーダーの記録の全貌が公開されていない。これらの点を修理ミスでどうやって説明するのか。 38年間も、日本国民に事実が隠蔽されているのではないか。

本書のように優れたノンフィクションの読者に与えるインパクトは強力である。ここで取り上げた二つの事故の原因は「仮説」ということになろうが、臨床推論のいうところの「オッカムの剃刀」に合致するものであり、すべてが一元的に説明されるのではないか。

隠蔽された事故原因を暴く痛快なノンフィクション出現を待ちたい。