Book Review 27-3ノンフィクション #ペイン・キラー
『ペイン・キラー』(バリー・マイヤー著)を読んでみた。著者はニューヨーク在住の作家・報道記者で、ピューリッツァー賞を受賞したタイムズのチームのメンバーである。
依存性薬物(オキシコンチン)に侵された米国の実情に肉薄し、製薬会社の闇を暴くノンフィクションと本の帯で謳っている。
私も最近、癌の全身転移による疼痛で悩む患者さんにオキシコンチンを処方した。確かに効くことは効く。本書を読むまで、合法的に処方されたオキシコンチンが米国の若者を蝕んでいるとは知らなかった。
2016年、米国では64,000人が薬物の過剰摂取で死んでいるのだそうだ。2021年には10万人を越えてしまった。端緒はそれまで無名のパーデュー・ファーマ社(サックラー一族)がオキシコンチンを合法的に販売した。問題は依存性が強く、呼吸ができなくなり死亡に至ることである。愉楽を求めて軽い気持ちでオキシコンチンを手にした若者たちが、依存症となり、生活が蝕まれてゆく様子が随所で語られている。合法的な薬(オキシコンチン)が違法薬と同様の大きな被害を招くことがデータ上で明らかになったが、被害は一向に減らない。パーデュー・ファーマ社は様々な論争や裁判に御用学者や有名人を繰り出して抵抗する。その間には美術館に多額の寄付をして社会貢献をしていることを装う。
オキシコンチンの問題を解決する方法は、政府がこの薬をリコールすることしかないと決断し、トランプ大統領が、正式にオピオイド危機を国家的緊急事態と宣言した。
最近、制作者たちが寄付を受けた美術館での作品展示を拒否したことが契機になり、美術館からの寄付金の返還や美術館におけるサックラー一族の名前の削除が起こっている。肝心の薬物問題はどうなっているのか。はっきりとはその後の経過が記載されていない。
そこで、この点に詳しい丸山ゴンザレス氏(本書の推薦者)のブログ記事を見てみた。彼は大麻解禁後のロサンゼルスや国全土で解禁されたカナダを2018年1月に取材している。米国の若者には、大麻使用に抵抗はないようだ。「大麻入りドッグフード」が犬の不安が解消され、おとなしくなると言い、大麻が人間以外の分野にまで浸透している現状が明らかとなる。年商5億円を稼ぎ出す大麻農場もあるそうだ。「合法化によって、闇ビジネスをやりにくくなっているのでは」と、取材に応じたギャングの代表格の男性は、「闇取引が無くなって収入は減ったが、その分抗争も減って平和になった」と語る。カナダのバンクーバーでは、違法薬物の使用が黙認されているという「薬物使用室」を取材し、合法麻薬がヘロイン等のハードな麻薬への導入役の役割を果たしている実態が分かってきた。日本は大丈夫なのか、不安が募る。
因みに大麻中毒の症例問題によくでるillness scriptは、「激しい嘔気・嘔吐を軽快させるために熱いシャワーを浴びることを繰り返す若者」である。