Book Review 6 資本主義

資本主義に関しての本を3冊読んでみた。

斎藤幸平著『人新世の資本主義』、イワン・クラステフ著『模倣の罠』、キア・ミルバン著『ジェネレーション・レフト』である。世の中が大金持ちと貧困者に2分化されている。恵まれた才能と努力の結果、金持ちが益々潤うことを是認し、その一方で、貧困者も金持ちからの余剰で生きていける、という発想はおかしい(マルクスがそう言っている)。

『人新世の資本主義』から。話は気候変動から始まる。気候危機は既に始まっている。これは人災である。資本主義は「中核」と「周辺」で構成されている。資本主義による収奪の対象は周辺部労働力だけでなく、地球環境全体(採取主義)なのだ。気候変動はその帰結なのだ。資本主義は自らの矛盾を別のところへ転嫁し、不可視化する。現在、資本の外部化や転嫁の余地が急速に萎んでいる。経済成長を支えてきた大量生産・大量消費そのものを抜本的に見直さなければならないときに来ているのである。しかしながら資本主義は自ら止まりはしない。そのうち変わるかもしれないなどという楽観的な予測は間違っている。法律や政策の変更だけでは資本主義は飼いならせない。政治は経済に対して、自立的ではなく、他律的なのである。資本主義を乗り越えて、「ラディカルな贅沢さ」を実現するのが「コモン」なのだ。「資本主義の超越」、「民主主義の刷新」、「社会の脱酸素化」が三本柱となる。「3.5%」の人々が非暴力的な方法で本気で立ち上がると、社会が大きく変わる(エリカ・チェノウェス)。我々の未来は、今、3.5%のひとりとして立ち上がるかにかかっている、と論を結んでいる。

『模倣の罠』から。西欧先進諸国の民主主義・資本主義を鏡とする「模倣の時代」の行き詰まりが、プーチン習近平、トランプなど強権的な指導者の登場を招いた。3つタイプの模倣の誤りがあるという。1)中東欧の模倣は、羞恥や屈辱や敵意の感情を生んだ。幻滅も生じ、知識人は給与の高い先進国へ脱出し、低知識層が中心の反自由主義や排外主義のルーツとなった。2)ロシアは共産主義を卒業し自由主義になったというが、表面上の「模倣の政治」に過ぎなかった。民主的な選挙でリーダーを選んでいるように世界にアピールしているが、実は強権で選挙を圧殺する帝王政治である。3)中国は資本主義だけを模倣し、民主主義は模倣しなかった。中国は主義を押し付けないが、お金を儲けて援助国への経済的なプレッシャーで覇権を握ろうとしている。そもそも問題の多い資本主義を「模倣」すること自体が間違いかもしれない。正しく模倣しても、大金持ちと貧困者しか生まないのだから。

『ジェネレーション・レフト』から。資本主義は3%の成長が見込めなければシステムそのものが破綻してしまうそうだ。市場に任せておけばいい、新自由主義こそが効率的である、政府は小さい方がよい、という新自由主義金融危機・気候変動の危機に全く機能していない。年配世代は自由主義に従属し、若者世代はそこから逃げ出そうとする。2008年の金融危機から、若者たちの左傾化が進んだ。2011年に全世界に広がった様々な抗議運動(英国のジェレミー・コービン、米国のバーニー・サンダース)が一時盛んになった。新自由主義政策が世代間格差を生み出し、若者が負の影響を被る、と考えるからである。各世代が「出来事」をどう経験するかが「保守化」と「左傾化」の別れ目になるという。大災害を利潤に誘導する「ショック・ドクトリンナオミ・クライン)」など醜い資本主義者に反発し、世界的な抗議活動を若者たちは能動的・積極的なものとして経験した。2019年、若者たちのこのような活動は勝利間近であったが、新型コロナウイルス禍で集会や抗議活動ができにくくなり、一時停滞してしまった。しかし、若者の「コモン」を目標とする思想・活動は静かに盛り上がっている。未来はどこへ向かうのか。新しい社会に向けた大きなビジョンを描きことが不可欠である。

若いジェネレーションに現状打破を託すだけではなく、我々の世代も彼らの訴えに耳を傾け、新しい価値観を学び、ともにアクションを起こす必要がある。我々は「合成の誤謬(目の前の合理性追求は、大衆の不幸)」の世界から脱却しなければならない。