Book Review 24-3歴史 #蚊が歴史をつくった

 

『#蚊が歴史をつくった』(ティモシー・ワインガード著)を読んでみた。

著者は歴史学者で、大学で歴史学政治学を教えている。陸軍将校として服務経験を持つ。

「私たち人類は、蚊と交戦中である。」で本文は始まる。蚊による殺害数(2018年)は83万人だった。人間同士は58万人殺害し、二位に甘んじた。人類の歴史において、蚊は他のいかなるものよりも人命を奪ってきた。統計に基づく推測では、蚊による死者数は過去の全人類の半分近くとなっている。その原因は、蚊によって伝播(媒介)される有毒で高度に進化した疾病である。

 

本書全体の歴史への考察は、戦争や政治、移動、交易、人間による土地の利用方法がどのように関わり、自然気候の歴史への影響である。蚊は真空には存在せず、全世界にわたる蚊の支配的な立場は、自然と社会の両方によって引き起こされた歴史上の出来事によって生み出された。


 ヒトには蚊に対する心からの嫌悪がある。蚊をたたくことは万国共通の気晴らしであり、人類の夜明け以来続いている。蚊との戦いは、まさに全人類を挙げての戦いなのだ。

本書は19章からなる。

1章。蚊がもたらす有毒な双生児;マラリアと黄熱

蚊のオスは刺さない。メスは自分の体重の3倍の血を吸う。人間に有害なのは1400種。特にマラリア(毎年3億人が感染)と黄熱(ウイルス、アフリカに集中、3-5万人が死亡/年)が重要。気候の温暖化によって、年間を通じて蚊が風土病の流行を促している。

マラリアといえば、研修医時代に指導を受けた病理のT先生を思い出す。T先生は南アフリカアパルトヘイト撤廃運動(1948年から1990年代初めまで実施した人種隔離と差別の法制度)に関わっていた。私も反対のデモに動員された。T先生は実際にアフリカに行って貢献しようと考えて渡航手続きをとった。そんな矢先お父様が不治の病となり、死を待つばかりとなっていた。日本で待機していたが、渡航期日が迫ったためアフリカへ出発した。アフリカ到着後、3日目にお父様は亡くなられたため、とんぼ返りで実家のある鹿児島に帰国した。そうこうするうちに発熱や黄疸が出現した。マラリアと診断が付いた時には、特効薬が鹿児島では手に入らず、死への道へと旅立った。


第2章。適者生存;熱の悪霊、フットボール、鎌状赤血球のセーフティ。

遺伝性鎌状赤血球症の症例。高地で脾臓と胆のうの機能が停止し壊死が生ずる。8000年前、蚊の生育地が森林から農耕地に。熱帯マラリアに対して保因者は90%の免疫を有する。世界に5000万人。HIVに感染しやすい。

 

以下に各時代の戦争に蚊が与えた影響が記述されている。アレクサンドロスローマ帝国の興亡、宗教危機と十字軍、チンギス・ハーンモンゴル帝国コロンブス、アフリカ人奴隷制度、蚊と英国の拡大、植民地戦争、米国独立戦争、解放戦争と南北アメリカの発展、蚊―綿花、奴隷制度、メキシコ、米国南部、南北戦争、疾病と帝国主義第二次世界大戦沈黙の春、今日の蚊と蚊媒介感染症、と続いてゆく。

 

蚊を除去するにはどうしたらいいのか?具体的には、庭や家周辺の水たまりを除去し、水を溜めないようにすること、蚊が嫌う香りのあるハーブ類や植物を植えること、蚊の天敵である生物を誘引することが効果的である。 また、蚊取り線香や防虫スプレーなどは一時的な対策であり、長期的な期待はできない。「蚊は意外にも風に弱い。 体重は2mgと非常に軽く、弱い風でも飛ばされる。 そこで、扇風機を活用すると寄ってきにくくなる」と研究者の声。

人の体温(熱)や二酸化炭素、汗などは、蚊をおびき寄せるため、体温が高く、たくさん汗をかく子供や吐く息が多い人は蚊に刺されやすい。また、血液型がO型の人やアルコールを飲んだ人が刺されやすいという調査結果がある。

 

研修医に必ず教えること。アジアからの帰国者が発熱したときは、輸入感染症big 5を考える。マラリアデング熱、腸チフス、レストスピラ、リケッチアである。そのうち、マラリアデング熱は蚊が媒介する。