Book Review 22-3環境 # 毒の水

 

『毒の水』(ロバート・ビロット著)を読んでみた。著者は米国の弁護士。PFAS曝露被害訴訟の第一人者。

 

デュポン社の工場排水が50年間垂れ流されて、近隣の住民・家畜に著しい健康被害が起こった。そこでデュポン社を相手取って裁判闘争をして勝訴した記録である。

 

デュポン社のある研究員が本来の目的である実験に失敗したが、耐熱性、滑り性、非粘着性、耐薬品性、低摩擦性、絶縁性に優れた性質を同時に兼ね備える物質の発見に繋げて、商品化したものがテフロン(フッ素樹脂)である。その特性を生かし、食品・化学・半導体・液晶・理化学機器・輸送など多くの業界の製品となっている。身近なものとしては、フライパンがある。

 

 ネットで検索すると、テフロンの主成分であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、非常に強い炭素・フッ素結合を持ち、非常に高い耐熱性を誇る。しかし、このPTFEが分解すると、非常に有害な化学物質であるフッ化水素酸が発生する。テフロンの原料となるフルオロポリマーの製造に用いられる最も有害な化学物質(PFOA)が問題となる。PFOAは、生物に悪影響を与える可能性があるため、2010年に米国環境保護省によって実質的に禁止され、欧州連合でも2015年に完全に禁止された。

 

 このような情報が一般に公開されるようになったのは、この本の著者たちの闘争があったからなのである。

発端は1990年代、米国の一つの農場で家畜が次々に死んでいったことである。牧場の牛たちを全滅させ、人間にまで悪影響を及ぼす。デュポンの工場で働く女性労働者が出産したとき新生児7人のうち2人も眼に異常が認められた。PFASは水道水にも入っていて、大勢の市民が健康被害にあった。その原因が付近の川の水の汚染にあると確信した農場主は、近隣の工場から川に何らかの有毒物質が流れ込んでいるに違いないと考えて、訴えを起こした。それが全ての始まりとなった。当初、マスコミもデュポン社の主張するとおり、健康被害は出ていないというキャンペーンに乗っかっていた。

この汚染は日本でも東京の横田基地周辺や沖縄の米軍基地周辺で大問題となっている。泡消火剤にも含まれているのだ。日本政府は米軍に文句のひとつも言えない。日本にあるアメリカ軍基地由来のPFASはヒ素や鉛などの猛毒より、さらに比較できないほどの毒性を有している。がんや不妊、ホルモン異常などの原因になっている疑いがある。米国が日本を守ってくれているなんていうのは幻想である。

PFAS(有機フッ素化合物)は、自然界ではほとんど分解されることがない上に、一度体内に取り込まれると消えることなく蓄積し、がんや潰瘍性大腸炎などの原因となるのだ。本書は、このような事実が長年隠されてきた事実を暴き、巨大企業を告発した一人の弁護士の、問題の責任を負うべき巨大企業と二十年にわたって戦い続けた人生を賭けた壮絶な闘いの記録である。映画『ダーク・ウォーターズ』の原作本でもある。

コロナ禍にあって、映画『ダーク・ウォーターズ』は日本ではあまり話題にならなかったようだが、通販でDVDを購入して観てみようと思う。