Book Review 24-1 歴史 # 人類の起源

 

『人類の起源』(篠田謙一著)を読んでみた。

 

2022年のノーベル生理学・医学が、DNAを用いた人類遺伝研究者(ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ博士)に贈られたことは記憶に新しい。4万年前のネアンデルタール人の骨に残っていた遺伝子情報から、ネアンデルタール人と私たちホモ・サピエンスの種が交わっていたことを発見した、ことによる。

 

太古の人骨に残されたDNAを解読し、ゲノム(遺伝情報)を手がかりに人類の足跡を辿る古代DNA研究が、ここ十数年で驚くほどのスピードで、次世代シークエンサが実用化(核のDNAの解析)されて飛躍的に進展を遂げている。

 2010年にネアンデルタール人の持つすべてのDNAの解読ができた。ホモ・サピエンス(「賢い人」という意味)はネアンデルタール人と60万年前に分かれたそうだ。人類の起源は700万年前で、ホモ属の誕生は200万年前である。

30万年前にアフリカで誕生したホモ・サピエンスは、どのように全世界に広がったのか。完全な直立二足歩行が進化をもたらし(道具の使用はホモ・サピエンスに限らない)、ホモ・エレクトスとなった。そして、6万年前にアフリカから移動が始まった。

旧人であるネアンデルタール人やデニソワ人との血のつながりはあるのか。ネアンデルタール人のDNAがホモ・サピエンスには2.5%混入しているそうだ。デニソワ洞窟(チベット高原)が発見され、隠れた祖先としてデニソワ人が出てきた。その洞窟はネアンデルタール人やデニソワ人、ホモ・サピエンスという異なる3種の人類が利用していたという。

 

 本書の内容は、ホモ・サピエンスの誕生、「隠れた祖先」であるネアンデルタール人とデニソワ人について、アフリカからの拡散、ヨーロッパへの進出と東西分岐、極東への「グレート・ジャーニー」と続いてゆく。この解析にはクリスパー・キャス9の遺伝子編集技術が大きな役割を果たした。

 

日本列島集団の起源(本土・琉球列島・北海道)についても考察される。西遼河流域が日本語や韓国語の祖語の起源地だそうだ。日本人のルーツに関して、縄文時代の人骨と弥生時代の人骨に違いに言及している。ルーツは、アイヌ集団、琉球列島集団、本土日本人に分けられる。琉球列島集団は縄文系の比率が高く、アイヌの人たちはオホーツク文化人の影響を受けているそうだ。

新大陸(北米)先住民の起源は、ベーリンジア先住民かららしい。

 

最後に、古代ゲノム研究の意義として「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」という画家ポール・ゴーギャンタヒチ島で作成した油絵作品(ボストン美術館に所蔵)の左上に書かれた言葉で締めくくっている。(ゴーギャンの答えは、作品を右から左へと順に見てゆくとわかるそうだ。生命の始め、人間の若い成人期、人生の終わりと移ってゆく。背景に描かれている青い偶像の彫刻は人々の生命を超える何かの存在を象徴しているらしい。)

 科学の新たな進歩が歴史研究に一石を投じている。