Book Review 6 資本主義 補遺

資本主義に関しての本を3冊読んでみて、我々の世代も新しい価値観を学び、アクションを起こす必要がある、と前回の結びとした。そんなところにヒントになる小説に出会った。『エアー 2.0』(榎本憲男著)である。著者は映画会社でプロデューサーをつとめながら、映画脚本も執筆。

東日本大震災原発を首になった高卒の若者が主人公の近未来小説。その主人公が2020年(現実は2021年)開催のオリンピック会場である新国立競技場の工事現場で不思議な老人と出会う。その老人に託された馬券が大穴で5千万円を得る。それは不法にJRAを恐喝して得たお金であった。(本筋はここから)大金を手にした主人公の前に、再び老人(あとでノーベル賞受賞者とわかる)が現れ、彼が開発した市場予測システム「エアー」の代理人として、日本政府との交渉にあたるよう依頼される。「エアー」は人間の感情を数値化して、完璧な市場予測を可能にするもので、政府が握るビッグデータをインプットすることで、国家予算を潤すほどの巨額な利益をもたらすものでもあった。地域通貨(カンロ:甘露 1カンロ=1円)を作り、福島の原発事故による帰還困難地区に人と金を集めて活性化することを意図した被災地復興の物語となる(官民の区別なく叡智を結集するという物語の骨組み)。農業やエネルギー、芸術など様々な分野への提案をみることができる。経済分野の官僚や政治家が登場し、経済の成り立ちを説明してくれる。ノーベル賞経済学者ジョセフ・E.ステグリッツの理論がもとになっているようだ(斎藤幸平氏にはダメだしされているが)。ここまでの私の資本主義についての理解をいうと、「資本主義とは、現物を提供す前に借金して、その金で市場を膨らまして儲けるバブル状態である」。

文芸評論家北上次郎氏が、不思議な小説で内容を真に理解したかどうか疑わしいと文末の解説で述べている(私も同様である)。しかし、一気読み。

原発事故で汚染された地域について、被災者の気持ちや除染地区の活用も考えつかず、あきらめムードにいる自分に「喝!」を入れてくれた小説であった。