Book Review 26-2ディストピア小説 # 侍女の物語/誓願

 

侍女の物語』、『誓願』(マーガレット・アトウッド著)を読んでみた。

著者はカナダの作家。ディストピア小説である『侍女の物語』(The Handmaid's Tale)は、1984年に執筆開始したそうだ。ジョージ・オーウェルの『1984年』を意識している。カナダ総督文学賞アーサー・C・クラーク賞などを受賞。続編『誓願』(The Testaments)が刊行され、日本でも2020年に発行。

2017年にはテレビドラマ化(第69回プライムタイム・エミー賞や第75回ゴールデングローブ賞受賞)されDVDで発売されているが(その前に映画化したが、こちらは評判がよくない)、日本語字幕がついていないので購入していない。本書は読み進めるのが大変なので、本当はDVDで観たかった。

舞台であるギレアデ共和国は、近未来の米国の成れの果て。トランプ大統領を実現させた米国なら架空とも言えなくなっている。女性だけを抑圧し、男性には苦痛のない世界。キリスト原理主義勢力(トランプの支持基盤)によって誕生した宗教国家である。有色人種、ユダヤ人を迫害し他の宗派は認めない。内戦状態にあり国民は制服の着用を義務づけられ監視され逆らえば即座に処刑、または汚染地帯にある収容所送りが待ちうけている。生活環境汚染、原発事故、遺伝子実験などの影響で出生率が低下し、数少ない健康な女性はただ子供を産むための道具として、支配者層である司令官たちに仕える「侍女」となるように決められている。侍女であるオブフレッド(オブはofのことでフレッドの所有物という意味である。固有の名前で呼ばれることはなく、日本だと〇〇夫人に当たるか)は、恐怖と絶望に耐えながら従順を装いつつ生きている。情報から隔絶され常に監視の目を意識しながら司令官に仕えていたが、ある日こっそりと司令官は人間として自分に接するように求めてくる。一方、司令官の妻は夫に授精能力がないことを看破し、夫婦付の運転手と交わり妊娠するようにオブフレッドに密かに命ずる。そんな社会から逃亡を果たすが・・・

誓願』は『侍女の物語』のその後を期待され、ついに30数年を経て出版された。『誓願』の舞台は『侍女の物語』と共通している。ギレアデ共和国はアメリ東海岸を中心とした国家であり、周辺国家とは戦争状態にある。

誓願』は三人の女性の目から語られる。一人目は『侍女の物語』にも登場したL小母であり(小母は女性の階級では一番上)、ギレアデ共和国成立前は教師などを経て判事を務めていた体制側の人間である。ギレアデに迎合しているよう装い、密かにギレアデ転覆しようとした日記を残す。二人目は、司令官の家の養女となったAである。Aは司令官の後妻に疎まれ、高齢の司令官との結婚を強制される。これを嫌い、小母となるために養成施設に入り、L小母に出会う。三人目はカナダで育ったNである。養父母をギレアデからのテロリストに殺されたNはギレアデに潜入し、L小母に託されたギレアデ・スキャンダルを暴く文書を持って、種違いの姉Aと伴にカナダに戻る。

さて、彼らはギレアデを転覆できるのか。読んでいて、現在の#Metoo運動や、ドランプ時代の米国を想像してしまう。トランプ大統領の再選を願わない私としては、転覆を期待するのだが・・・