Book Review 7 北海道を扱った小説

北海道を扱った小説を読んでみた。

まず浮穴みみ氏(北海道出身)の3冊。『鳳凰の船』、『楡の墓』、『小さい預言者』が氏の北海道三部作と言われている。歴史時代作家クラブ賞受賞。三冊とも北海道を扱った短編5編ずつを収めている。

鳳凰の船』。江戸から明治を迎えた函館。かつて洋船造りの名匠がいまや一介の仏壇師としてひっそり暮らしていた。そんな男のもとを若き船大工が訪れる。船談義を交わすうちに男の胸が再び奮い立つ(鳳凰の船)。函館港湾改良工事監督の男は弁天台場の解体工事を躊躇していた。旧幕時代の英知を結集して造られた建造物の破壊に、痛みにも似た悲哀を感じとる(彷徨える砦)。北海道の地で、時代の狭間に生きる人々の機微を掬いとった五編。

『楡の墓』。明治初期の北海道サッポロ。新時代の波に呑まれ土地を去る者。骨を埋めると決意する者。北辺に身を置く人々が選びとった道を研ぎ澄まされた筆致で照らしだす五編。どれも主人公に感情移入してしまい心洗われる作品である。札幌がどのようにして成立したかが理解できる。

『小さい預言者』。ゴールド・ラッシュに翻弄された人間の悲哀(ウタ・ヌプリ)。新天地・樺太への玄関口が、静かに見守る親子の情愛(稚内港北防波)。戦争に躍らされた炭鉱の末路とささやかな希望(小さい予言者)。現在、我々が忘れてしまっている先人たちの生きざまを掘り起こし感動をよぶ。北海道各地の歴史に触れることができる。

 次は西條奈加氏の『六つの村を越えて髭をなびかせる者』

算術で身を立てようとした出羽国の貧しい農家に生まれた男、最上徳内の物語である。江戸中期の田沼意次の時代、幕府では蝦夷地開発を計画していた。蝦夷地見分隊随行し、そこで雄大で厳しい自然、アイヌの少年や長たちと交流するうち、徳内の中に北方とアイヌへの愛情が育まれていく。アイヌを虐げ、搾取する松前藩に怒りを覚えた徳内が、自然の猛威、松前藩との確執、幕府の思惑の中、行動する。

第2章が松前、第3章がアッケシとなっており、それらは札幌医科大学総合診療科が関わった2大拠点であり、当教室もこの順に関わっている。江戸時代は華やかな土地であったようだ。教室が誕生した2000年には町は寂れ医療過疎地となってしまっている。松前と厚岸に紙面の半分を割いている。残念ながら、松前や厚岸の町の様子や住民の佇まいは全く出てこない。厚岸病院当直室から眺めた厚岸湖の景色が懐かしい。アイヌの反乱を鎮圧して松前に凱旋したときに松前藩の家老蠣崎波響が描いた12名のアイヌ画「夷酋列像(いしゅうれつぞう)」にも触れている。蝦夷地とアイヌを愛した誠実な主人公の思いがストレートに伝わってくる。