Book Review 5 サピエンス全史(上、下)

『サピエンス全史(上、下)』(ユヴァル・ノア・ハラリ)を読んでみた。

人類250万年を辿った歴史書である。現在、地球上のあらゆる生き物の中で、人類が最も力を持ったのはなぜなのか? 仮説(認知革命、農業革命、科学革命の3つより成り立つという)を提唱し、世界で1200万部のベストセラーになった。世界のリーダー的な人たちが注目している。マイクロソフトビル・ゲイツやメタのマーク・ザッカーバーグ、等。

サピエンスは環境を征服し、食物の生産量を増やし、都市を築き、帝国を打ち立て、広大な交易ネットワークを作り上げたが、世の中の苦しみの量を減らしていない。個々の幸福は必ずしも増進しなかったし、他の動物たちにはたいてい甚大な災禍を招いた、という結論となっている。

読み進めよう。現在生きている人類は、15万年前に生まれた「ホモ・サピエンス」たったの1種類。ホモ・サピエンスよりもネアンデルタール人のほうが、脳が大きく、力もあった。生き残りの原因は7万年前にホモ・サピエンスに起きた「認知革命」である。その後の「農業革命」と「科学革命」が起きたことが大きいが、それは認知革命があってのことである。

では、「認知革命」とは、「現実には存在しないフィクションを信じ、語ることのできる能力」が人類の繁栄に決定的だった。このフィクションを信じる力によって、人類は多くの人が協力できるようになった。そして、神話を作ることで、百人よりはるかに多くの面識のない人が、同じ神話を信じ、協力することができるようになった。そして、このフィクションは、すぐに別のフィクションに入れ替えることができる。それは進化よりはるかに早く、ホモ・エレクトスは、200万年の間同じ石器を使っていたが、ホモ・サピエンスは、次々と新しい神話やイデオロギーを生み出して、急激な発展を遂げることができるようになった。こうして、7万年前にこの認知革命が起きてから、ホモ・サピエンスはアフリカを出て、急速に世界中に広がってゆく。そしてなぜか他の人類は次々と絶滅し、ホモ・サピエンスだけが残った。

それまで250万年の間狩猟採集生活をしていた人類が、約1万年前に農業を始めた。小麦や稲、トウモロコシを作り、ブタや馬などの家畜を使うようになって、安定した豊かな生活ができるようになり、人類は躍進したというのがこれまでの見方である。しかし、本書では、コメやトウモロコシに人類が「飼いならされてしまった」と結論づけている。食糧は増えて、人口は急速に増えたものの、個人の生活は狩猟採集生活よりも困難で、労働時間は長くなり、貧富の差を生んだ。そして大きな苦しみを抱えてしまった。この視点がユニークである。

こうして、人口がどんどん増えて紀元前3000年には、巨大な帝国ができた。その帝国を支えたのが、認知革命「フィクションを信じる力」である。文字の発明によって他者と協力する体制を作ってゆく。共通の神話を信じ、そして階級差別、男尊女卑も生まれた。フィクションの中で大きな3つが、国と宗教とお金である。特に最強なのがお金だ。お金によって、物々交換よりもはるかに便利になり、世界中のまったく見ず知らずの人と協力して何かを成し遂げることができるようになった。

その後、人間が史上空前の発展を遂げたのは、西暦1500年頃から始まった科学革命によってである。それからわずか500年で、人口は14倍、生産量は240倍、エネルギー消費量は115倍に増えた。宗教よりも科学に答えを探求し始める。そして帝国は科学に投資するようになり、科学は帝国主義が結びついて成長するようになる。さらに資本主義が科学と帝国の躍進を支える。それまでは実物のお金しか使わなかったが、信用というお金(電子マネー、クレジットカード)が生まれた。科学革命で、未来は過去よりもよくなると信じられるようになり、信用が流通するようになった。商売で得た利益を生産に再投資すれば、商売はみんなを裕福にするというアダム・スミスの理論をもとに、金持ちから資本を集めて事業を興す株式会社が設立された。さらに、200年程前に産業革命が起こり、エネルギーを変換する方法(蒸気機関)が見つかった。次々に石油や電気が発明され、エネルギーの供給源となった。こうして飛躍的に伸びた生産量を支えるのが、欲望を刺激する消費主義である。資本主義と消費主義が表裏一体となって、人類は経済発展を続けている。

ここで著者は問う。現代の資本主義の中で、人類は狩猟採集生活時代よりも幸せになってのかと。今後、人類はどこへ向かうのか?著者は最終章で答えを匂わせている。

『サピエンス全史』をどう読むか、という解説本や漫画版も出版されている。