Book Review 22-1環境 # ルポ 食が壊れる
『ルポ 食が壊れる』(堤未果著)を読んでみた。著者は国際ジャーナリスト。公文書と現場取材に基づく幅広い調査報道と各種メディアでの発信を続ける。
2023年1月21日、京都で開かれた地域医療・介護研究会(LMC)に参加した際、その会に招かれていた川田龍平氏(東京薬害HIV訴訟原告団員、日本人未成年者HIV感染者として実名を公表。立憲民主党参議院議員)の夫人が堤未果氏であることを知った。様々な分野で鋭い提言をしているので、早速、本書を購入。
始めに、映画「ソイレント・グリーン」(1973年公開)の紹介がある。近未来の西暦2022年の食のディストピアを描いている(アマゾンでDVDを購入できる)。
本書は、「気候変動」と「食料不足」を一度に解決できると呼びかけることで、食料システムのリセットが進んでいる状況に警告を発している。推進勢力と対極の自然の力を信ずる人々とせめぎ合いを後者の立場に立って描いている。
まず、前者である食料システムのリセットを目論む筆頭はマイクロソフトのビル・ゲイツである。彼については資産を困窮している人々に施す篤志家の面がメディアで強調されているが、裏の顔はないのか。
その先鋒組織として各国を繋いだ「EAT」が立ち上がった。それにはビル・ゲイツ、種子のシンジェンタ、畜産のタイソン、化学のバイエル(悪名高いモンサントを併合)、グラクソ・スミスクライン、アマゾン、グーグル等の多国籍企業と億万長者の投資家が名を連ねている。そこにバイオ燃料の需要も見越して投機マネーの流入しており、国連も賛同し、これらの多国籍企業に忖度しているそうだ。
「大規模化、生産性向上、工業化して、農民がいなくてもAIがデジタル農業を営み、土がなくても野菜が育ち、鶏・豚・牛・魚や乳製品は遺伝子操作とバイオ技術で作り出して、必要な栄養もすべて添加できる」というスタンスである。
化学肥料メーカーの戦略は、爆弾の原料である「窒素」の次なる市場を生み出すことなのである。
具体的には、まず人工肉があがる。遺伝子組み換え酵母を使って人工的にヘムを作り出す方法が問題で、11倍のグリホサート系農薬が残留する。ところが米国当局は安全許可を出した。許をたどると審査の専門家を業界が選んでいるからである。学校給食にも進出を図っている。塩分が高く、添加物・保存料が多い。肥満や糖尿病、がんのリスクが高まる。そんなリスクがあるのに、「気候変動」と「食料不足」を解決できるなら、小さな問題であると鼻にも引っかけない。
次は培養肉である。ウイルスに感染しやすく、重金属、ヒ素、有機毒素が含まれるリスクがある。日本ハムが開発に乗り出しているそうだ。
そして培養魚。遺伝子組み換えサーモン、22世紀フグ等がある。日本では、ふるさと納税に使ってよいらしいが、後で問題が起こっても国は関知しないということだ。培養肉を各国で推進している。スシローが培養トロの開発に着手したという。人工母乳、合成生物等も開発している。mRNA溶液を野菜に移植するワクチン野菜も開発中。
これらの動きと連動して、地域の多様な種子が淘汰されている(モンサント社は農薬と遺伝子組み換え作物の種子をセットでないとは販売していない)。遺伝子組み換え大豆の単一栽培プロジェクトも進んでいる。最終的には、飢える人の数は増えるが、肥料の売り上げは伸びるという事態を招いている。
それに付随して世界中で農地の買い占めが進んでおり、その犯人は、ビル・ゲイツである。金貸しもしている。本当にひどい男だ。大量の水を汲み上げ、化学肥料をたっぷり使うゲイツ農場。菌根類がいなくなる。やればやるほど、肝心の土がボロボロになる。パンデミック・ウクライナ紛争・気候変動・食糧危機という世界的緊急危機がこの動きへ推進的に働いている。ゼレンスキー大統領(彼についてはbook reviewの人物欄で実像を紹介する予定)は農業については悪役である。彼はウクライナの肥沃な農地を他国へ売却することを推進している。
ここまで見てくると、夢も希望も打ち砕かれてしまうが、このような動きに対して世界各地で「再生型農業」で対抗しようとするうねりが起こっている。
牛の飼育が諸悪の根源のように言われるが実はそうではないようだ。囲って大豆等の飼料で飼育することが問題なのだ。農地再生には群れで大移動するバッファローが参考になる。放牧(多様な微生物の生きている土の上では、動物の免疫力が強くなる)することで解決できる。牛たちに健康な草を食べさせ、牛と草が持つ共生サイクルの循環を優先することが大切である。ところが我が国は放牧に補助金を出さない。
持続可能な農法として福岡正信氏が提唱した自然農法である不耕起栽培が注目されている。引き算の農業とも言われる(詳細はbook review 『土を育てる』に掲載予定)。最近、伝統的農法を無視して大規模化、生産性向上、工業化を推進したインドのモディ首相は、農民の困窮を増やすだけの「新農業法」の撤廃を表明した。
日本では、全国オーガニック給食フォーラムが立ち上がり、100%有機米の学校給食が始まっている。愛媛県今治市が嚆矢である。世界中で、有機学校給食を取り入れている国が急速に増え始めている。
高機能炭 通気性、透水性、排気性の三拍子揃う肥料も開発され、注目を浴びている。微生物の量と、窒素とリンの循環性評価値を出すと、土壌の肥沃度がわかるそうだ。土と同様に、人間も健康状態によって、腸内細菌数が変わってくるそうだ。米国アイオワ州ではカバークロップ農法(大豆畑の半分をカバークロップに)が導入され、作物に多様性が生まれ、新たな雇用も創出されている。
韓国では「在来種を手放さない」という動きも出てきた。
以上見てきたように、このままでは多国籍企業と億万長者に支配された「食のシステム」になってしまいかねない。私たちも何らかの形で「再生型農業」で対抗することに関わってゆかなければならないのではないか。