Book Review 31-1師弟関係 #師弟百景
『師弟百景』(井上理津子著)を読んでみた。大阪を拠点に人物ルポ、旅、酒場などをテーマに取材・執筆を続け、現代社会における性や死をテーマに取り組んだノンフィクション作品を次々と発表している。
師弟関係で是非読んで欲しいのは内田樹氏の『先生はえらい』だ。「ちくまプリマー新書」という中高生対象の新書シリーズの一冊。どのような先生がえらいのかではなく、弟子・生徒にあなたは「えらい」と思われた人がえらいのだ。偉い先生に型を嵌めることはできないのだ。これは目から鱗だった。
本書は、師匠と弟子の“リアル”な関係を、16組に取材して描き出している。
キーワードを列挙してみた。
■庭師
師は「雑木の庭」の先駆者。一年間、地堀りを命じられる。「木を見て、根の状態がわかるようになれ」。庭に必要な灯篭の研究。茶道を勉強する。師は弟子に、さり気ない独り言で、知ってほしいことを暗に示す。「50歳を過ぎないといい仕事は回ってこない」
■釜師
茶釜作り。コツコツを手作り。見て覚えろ、美術館巡りで目を肥やす。
■仏師
老師が彫った仏像をひたすら真似て彫る。それを師が手直しして再び彫る。「命がけでやりたい」という思い。「謙虚に多くを聞け」。
■染織家
「植物から命をいただく」。
■左官
「伝統を引き継ぎ、伝える」。
■刀匠
「背中を見て覚える」。「無謀でもやってみて覚える」。
■江戸切子職人
「伝統的、本質的、再定義」。
■文化財修理装潢師
「作品を第一に」。「愛情を持って」。
■江戸小紋染織人
「経験と勘」。
■宮大工
「一年間、刃物研ぎだけしろ」。「理屈はいらない」。「生活全部が勉強」。「共同生活」。「知恵を働かせ、手を動かせ」。
■茅葺き職人
「三手先を見ろ」。「俺の背中を見て覚えろ」。
要は「技術」と「人間性」のある先人に、若き弟子が「あなたはエライ」と盲信して、その世界に飛び込み、 “技術”と“伝統”を磨いてゆく、ストーリーである。
医療においても、よい先生のタイプは一つではないのだ。私の師は、福井次矢氏(臨床)、川上正舒氏(糖尿病)、後藤敦氏(空手道)、中村哲氏(僻地医療)。