Book Review 22-1環境 # サイレント・アース

『サイレント・アース』(ディブ・グールソン著)を読んでみた。副題は昆虫たちの「沈黙の春」だ。「昆虫が消えたら、世界は動きを止める」

 

沈黙の春』といえば、レーチェル・カーソン(1907-1964年)。海洋生物研究を続け、その成果として、自然を破壊し人体を蝕む化学薬品の危険性を世に訴えた(1962年に刊行)。半世紀を超えて読み継がれる名著である。

 

ハチを通じて環境変化に警告を鳴らした本に『ハチはなぜ大量死したか』(ローワン・ジェイコブセン著)がある。私は札幌医大時代にこの本を科学的な考え方の例として講義で使っていた。原著のタイトルは『沈黙の春』の中の一文である「fruitless fall」。2006年の秋、米国全土で「蜂群崩壊症候群」と呼ばれる原因不明のミツバチの減少事件が発生し、北半球全体に広がっていた。科学的に様々な原因が追究されたが、どれも決め手に欠いていた。結局、人間の都合で自然介入し過ぎてしまったことが複雑な要因を招いた結果であると推論している。

 

さて、本書はハチだけでなく昆虫全体について言及している。昆虫にとって、「飛行する」こと、「変態をする」ことが繁栄に繋がったようだ。

 

では「なぜ昆虫が重要なのか」

まず、食物連鎖の点で重要である。補食動物の餌に欠かせないからである。そして、食べたとき感染する可能性が少ないのだそうだ。昆虫はメタン産生に寄与しない。花粉の運び屋(87%)であるので植物の受粉に欠かせない。害虫防御や外来植物の抑制にも大きな役割を果たしている。有機物の分解にも関わり、さらに家畜の腸に棲む寄生虫の駆除にも役立っている。

 

現在問題なのは、我々が「昆虫の減少」に気づいていないことである。この50年間に急激に減少している。原因は、過度な森林伐採による半自然な成育環境の喪失、化学肥料による過栄養の害、農薬特にネオニコチネイド系農薬による(浸透性農薬)汚染された土地、除草剤であるグリホサート(モンサント社)の遺伝毒性等が挙げられる。モンサント社は環境破壊者で悪魔の種を販売していると言われている(警告の映画「モンサントの不自然な食べもの」のDVDを購入したが未鑑賞)。

 

植物の三大栄養素は、リン、カリウム、窒素だそうだ。痩せた土地に肥料をやって三大栄養素を豊かにすればいいように思えるが、実はそうではない。

 

人間は効率を求めて単一栽培を行っている。そうすると植物の多様性が減少(牧草地、緑辺部での花の減少)し、 昆虫が減少し受粉状況が変化する。 蝶の幼虫の死亡率も増加し、淡水の生息環境変化や飲み水への影響も大きい。

蜜蜂の感染率も増加し、養蜂家によるハチの移動が感染を広域に運ぶ。

 

「気候変動」も例外ではない。土壌の温度が上がると有機物が酸化して二酸化酸素を作る反応速度が上がる。洪水の起こる頻度が上がる。乾燥し火災が増える。これは昆虫の減少に繋がる。

 

人工照明がもたらすリスクも馬鹿にならない。波長で引き付けられる昆虫の種が異なる。外来種の移入も問題となる。

 

以上見てきたように、いくつもの原因が挙げられる。

 

結局、「総合的病害虫管理」対策が必要である。

食料供給システムを考え直さなければならない。人間の必要量の3倍のカロシーを生産し、そのクセ三分の一は廃棄、三分の一は家畜の飼料となっている。

世界の農地の3/4は肉と酪農品のために使用されている。食べ過ぎ、加工食品の摂りすぎを再考する。

 

病害虫の数を数えること(スカウティング)が有効。農地の周辺に草花を植える、有機農法、単一栽培を避ける等が考えられる。

市民農園(昆虫の多様性が高い、食料の輸送距離が短い、ミミズや有機炭素化合物が豊富で健全である、高齢者が健康)の利点が多い。

 

最後に行政や個々人ですべき対策がまとめられている(上記に記してあるので省略)

 

パンデミック対策も然りで、今人間中心的功利主義の再考の時である。