Book Review 9-3 『最悪の予感 パンデミックとの闘い』(マイケル・ルイス著)を読んでみた。

本書は現在進行形の新型コロナウイルス感染症への米国の対応を描いている。この対策チームの中心人物だった二人の医師を中心に進むスリリングなノンフィクションである。2019年暮れに最初の感染者が確認されてから約2年を経ても、新型コロナウイルス感染症は終息の兆しが見えない。米国は無策のまま世界最大の感染国になってしまったと私は思っていたが、本書を読むとそうではないことがわかる。過去のジョージ・W・ブッシュ政権時に国土安全保障省にバイオディフェンス局が設けられ、パンデミック対策戦略が策定された。ワクチンしかないと考えられていた時代に「アマチュア疫学」者の努力で「ソーシャル・ディスタンス」の考え方も盛り込まれた戦略はCDC(疾病対策センター)に採用され、2009年の豚インフルエンザの際はことなきを得ている。十数年前には、休校も「ソーシャル・ディスタンス」の戦略はなかったようだ。

2020年春、新たなパンデミックが米国に重大な危機をもたらす可能性に早くから気づいていたのも彼らだった。しかし米国は救えるはずであった100万人以上の生命を、CDCを始めとする官僚たちの無策によって失ってしまっている。折角収集したデータは政策に反映させず、官僚たちの論文作成のためにしか活用しなかったようだ。米国お前もか。米国は4年で政権が交代すると、人事も刷新され、これまでのデータはすべて捨てられるそうだ。安月給で働くカリフォルニア州の保健衛生官チャリティ・ディーン(主人公の一人)の努力や活動が報われない。(C型肝炎が健診で一人見つかったとき、これまでの保健衛生官と異なり放置せずに原因を究明する行動力は素晴らしい)。具体的な感染症対策の計画立案を任され、その作成した計画は上部に大統領にも届かない。本書では2020年春のパンデミックの初期局面までしか語られていない(リアルタイムなので)。どんな時、どんな国にも、自己中心的で栄達のことしか考えない無能な集団がいる一方で、患者や国民のことを優先して考え行動する人間がいるということがよくわかる。登場する二人の主人公には拍手を送りたい。

今回、マイケル・ルイスの書いた『かくて行動経済学は生まれり』も読んでみた。二人の天才心理学者がノーベル経済学賞を受賞するまでを描いたドキュメンタリーである。

著者は大リーグを扱った作品『マネー・ボール』(ブラッド・ピット主演で映画化されたノンフィクション)で注目された。1990年代末、資金不足から戦力が低下し成績も沈滞していたオークランド・アスレチックスは新任ゼネラルマネジャー(無名の元選手)のビリー・ビーンを雇った。統計データを用いた野球界の常識を覆す手法で球団改革を実行しチームを強豪へと変えていく。一時期大リーグの多くのゼネラルマネジャーはこの方法を真似したという。

この著者の本は、読み易く、次はどうなるのかとページを捲ってしまう。要注目である。