Book Review 9-24 医療 #ルポ 医療犯罪

 

『#ルポ 医療犯罪』(出河雅彦著)を読んでみた。新刊『おろそかにされた死因究明 検証:特養ホーム「あずみの里」業務上過失致死事件』が手に入らないため先に本書を読むことにした。

 

著者は元朝日新聞青森総局長。著書に『ルポ 医療事故』(朝日新書科学ジャーナリスト賞2009受賞)。

 

身近にあるずさんな医療の実態を検証している。

はじめに、生活保護患者を食い物にした奈良県のY病院事件に100ページ近く割いている。心臓外科医なのに、直前に近県でレーザーを用いた近視矯正手術を行う眼科を開業していた。医師会は新たな開業に難色を示していたが、結局承認された。開業後は奈良県外から生活保護の患者を多く受け入れ、半数以上に心臓カテーテル検査をしている。また、経験がないのに肝がん(後に肝血管腫と判明)の切除術を生活保護患者に施行し死亡させている。匿名の告発が多数医師会や警察に寄せられたのに、起訴されたのは11年後である(告発が匿名であること、県外患者のレセプトにアクセスできないことがネック)。医療に関わる犯罪を検察や司法が罪に問うのは大変な困難を伴うようだ。

次は、3年間に4件の重大事故を起こしたリピーター医師が軽微な罰金で野放しにされている例。産婦人科の麻酔薬にからむ事例。

3例目は銀座で開業する眼科医がレーシック手術で70名に及ぶ集団感染事件を起こした例。利益を優先し、滅菌処置をなおざりにしていた。手洗いをせず、素手で手術をしていたという。結局実刑判決を受けている。

4例目は歯科インプラント手術後に止血ができず死亡事故を起こした例。「科学的根拠」のない独自の治療法であった。インプラント手術にはエビデンスがないようだ。

5例目はガスボンベの識別色が曖昧で、咄嗟の判断が求められたときにミスを招きやすく、救急処置や手術室で酸素と間違えて高濃度の二酸化酸素を患者に吸わせて死亡させた例。

6例目は研修医が5倍量の抗がん剤を処方した処、薬剤師や指導医の目をすり抜けて患者を死亡させたT病院薬剤過量投与事故。患者の体重を確認するために席を離れ、再度席に戻って確認したときに反対ページの薬剤の体重当たりの使用量で計算して処方をしまった。その後病院側が研修医に遺族との接触(謝罪)を妨げ、遺族の不信を買った。

 

『医療エラーはなぜ起きるのか(When We Do Harm)』(Danielle Ofri著)を以前にレビューした(Book Review 9-12 医療)。2例の誤診例(急性骨髄性白血病カテーテル汚染による敗血症、熱傷患者の治療)を時系列に提示している。どちらにも医療者も患者に対する傲慢さと謙虚さのなさ、コミュニケーションのなさが潜在している。

前報の繰り返しになるが、医療エラーは米国で死因の第三位。死者は年間25万人を上回る。「ハーバード・メディカル・プラクティス・スタディ」によると、1984年の1年間、ニューヨーク州の51大学の入院患者で調査したところ、3.7%に傷害、そのうち14%が死亡していた。年間で約10万例に傷害(毎日ジャンボジェット機が1.5機墜落と同じ)。入院患者に限定しているので、外来患者には当てはまらないかもしれない。結論は、医療システムの欠陥が主な原因(ナースの受け持ち数が多い、頻繁のアラーム音で思考停止、類似名の薬剤、病棟により薬剤の置き場の違い、環境が悪く薬剤名が読めない)と結論付けられた。

過労の問題も大きい(当院で地域研修をした研修医が基幹病院に戻ってから、過労が原因で自死し、現在裁判となっている)。研修医の過労から、特に薬剤量の指示間違えが多発している。週末や祝祭日に入院した患者の死亡率は高い。

 

乱脈診療を行っても、放置され、行政機関が追求しようとしても、立場の弱い患者の声は届けにくいのが現状のようだ。本書の例は一般医には問題外であるほど悪意が潜んでいたが、私たちは初心に帰って、日々真摯に診療に当たらなければならない。