Book Review 12-5 スポーツ サッカー

『#This is The Day』(津村記久子著)を読んでみた。著者は 『#ポトスライムの舟』で芥川龍之介賞(2009年)、最近では『#水車小屋のネネ』が話題になっている。本書は第6回サッカー本大賞を受賞した。(著者はうどんが好きらしく、作品に度々登場する)。

2024年初頭はアジアカップでの日本代表の活躍で盛り上がっていた。ベスト8で負けてややトーンダウンしたが・・・。本書で扱うのは日本代表選手でもなく、J1チームでもない。何とJ2である。そして対象は選手ではなく、サポーターである。最近、NHK町田ゼルビアのJ2初優勝と J1昇格 、黒田剛監督のチーム改革について報道していた。観客数を増やすため、地域密着型の様々な取り組みもなされていた。

ネット検索すると、サッカーを扱った小説は意外に少なく、コミック本が多い。本書は架空の22のチームを応援する人たちの試合への関わりを描いている。時期は今季最終試合(This is The Day)である。J2は昇格も降格もあるので、サポーターの一喜一憂する場面が多くなるのでより盛り上がる。

22チームが対戦する際に、それぞれが別々のチーム応援する2人のことが描かれる一話完結の連作小説集。職場の人間関係に悩む会社員であったり、別々のチームを応援することになった兄弟であったり、両親の離婚で十数年ぶりに再会した孫と祖母であったりと、2人の人間関係は様々である。
 22チームが対戦するため、11話となっており、最終章に昇格プレーオフの様子が書かれ、日程終了後の順位(昇格、降格も)が最終ページに載っている。

登場する架空の22チームの名前とロゴが表紙の裏にカラーで掲載されている。地域の名所や名物、祭りなどが盛り込まれていて興味深い。奈良の鹿や青森のねぶた等。著者が考えたのだろうか。ロゴを見ているだけでも楽しくなる。その名前は以下の通り。オスプレイ嵐山、CA富士山、泉大津ディアブロ、琵琶湖トルメンタス、三鷹ロスゲレロス、ネプタドーレ弘前鯖江アザレアSC、倉敷FC、奈良FC、伊勢志摩ユナイテッド、熱海龍宮クラブ、白馬FC、遠野FC、ヴェーレ浜松、姫路FC、モルゲン土佐、松江04、松戸アデランテロ、川越シティ、桜島ヴァルカン、アドミラル呉、カングレーホ大林。

ジュビロ磐田のサポーターが、本書の内容と2023年のJ2の状況が偶々同じなので驚いていた(作中のヴェーレ浜松が、なんとジュビロと同じ二位で昇格)。

サッカー選手やその技能についてはあまり触れられていないが、サッカーサポーターの心情や行動が手に取るようにわかって、どの章もリアルで面白い。選手ではなく、サポーターを描いたことに先見の明がある。