Book Review 15-9 時代小説 # 白村江

 

『# 白村江』(荒山徹著)を読んでみた。

著者は読売新聞社、出版社勤務を経て作家となった。大韓民国に興味を抱き独学で韓国語を学び留学した。韓国留学経験を生かして多くの作品に朝鮮半島または朝鮮人が登場する作品を仕上げている。山田風太郎氏の作風に似て、妖術や剣術を駆使した朝鮮妖術師、高麗忍者、朝鮮柳生らが登場することもある。日本冒険小説大賞をはじめ様々な賞を受賞している。

白村江(はくそんこう、はくすきのえ)の戦いとは、天智天皇の時代に百済を救済しようと朝鮮に遠征して、大敗してしまったとしか記憶していなかった。しかし、本書を読むとそうでなったことがよくわかる(どこまでのフィクションで、どこまでが史実なのかが判然としないが)。

西暦660年、唐・新羅連合軍によって百済は滅亡、王とその一族は長安に送られた。遺された唯一の王族・余豊璋は倭国へ亡命する。新羅の金春秋、高句麗の泉蓋蘇文、倭の蘇我入鹿葛城皇子(のちの天智天皇)等の各国の思惑は入り乱れる。
 著者は、大化の改新朝鮮半島の動乱、白村江の戦いが日本の躍進に関係しているとする物語を紡いでいる。白村江の戦いとは、「百済倭国」対「新羅・唐」と言われるが、実は、倭国新羅は裏で策を弄して、倭国は船で兵士を送っても簡単に負けて、百済は滅され、新羅が領土を拡大し、一方倭国百済文民を受け容れて律令政治に移行するのに枯渇していた人材を確保した、というものである。 

最後の1行が驚愕的である。義経チンギス・ハーンは同一人物だったというようなウルトラC的な終局となっている。この時代の周辺国をネットで検索すると確かに本書に登場する人物と同名である(此の辺の歴史に詳しい者には小賢しいと感じるかもしれない)。著者特有の妖術的な部分はなく、歴史小説と十分に堪能できた。