Book Review 27-6ノンフィクション #シービスケット

 

『#シービスケット(Seabiscuit:An American Legend)』(ローラ・ヒレンブランド著)を読んでみた。著者は、本や雑誌の記事を執筆している米国人。2 冊のベストセラー・ノンフィクション本がある。

ミチコ・カクタニ氏(ピューリッツア賞受賞、ニューヨークタイムズで長年書評を担当した文芸評論家)が『#エクス・リブリス』(愛読書紹介の本)で推薦していたので読んでみた。米国の競走馬の話である。

私自身は一度も馬券を買ったことがない。それは#阿佐田哲也氏のギャンブル哲学を尊重しているからである(『#うらおもて人生録』を参照)。力差のない世界では9勝6敗がベスト。(ここまで書いて定かではない部分が出てきたので、kindle版を購入し、読後に要点を抜き書きした)。持続を旨とすべし。勝ち過ぎてはいけない。全勝を狙えばたくさんのロスを覚悟しなければならない。フォーム(生きていかれる原理原則)が最重要。運を余計なところで使ってはいけない。勝ち続けることはできないから、いかに上手に負けを拾うかが大切。全勝を目指してはいけない。だから、馬券を当てて不要に運を使い捨ててはいけない、ということになる。宝くじも買わない。博徒はギャンブルに勝つために、その他すべてを犠牲にする(運を使わない、大負け越しになるような負け星を避けてゆく)。私の場合は、運は仕事に回す。真の博打には区切り目はない。「禍福は糾える縄のごとし」。ただ生きているだけでなにがしかの運(セオリー化されていない部分)を使っている。実力は負けないためにある。実力より多い収入をもらってはいけない(運の浪費)。圧勝は自分のためにならない。誠意がスケールにつながる。実生活では負け星が先、その後から勝ち星を拾う。一歩後退、二歩前進。不格好さをユーモアに転化する。1)一か所で淀まない、2)ゆっくりと一段ずつ、3)後戻りだけはしない。あえて二軍落ちしてフォームを固める。本当のしのぎ勝ちというのは、スケールで他を圧したとき。先をとって生きる。一病息災。連敗はよくないし、連勝もよくない。勝たり負けたりがよい。すぐに切り返す。この本は劣等生向けに書かれたそうだが、この哲学を如実に実行しているのは#大谷翔平選手ではなかろうか。「お金はいらない」と言ったのは、他人にお金をあげて、野球だけに運を使うようにしているのであろう。誠実であり、スケールで勝負している。

さて、競馬小説と言えば、#ディック・フランシスとなろう。1957年に騎手を引退したのち、作家となり推理小説を執筆して英国推理作家協会賞や米国探偵作家クラブ賞(エドガー賞・長編賞)を受賞した。また、作品タイトルの邦題が全て漢字二文字で表記されている。代表作は「興奮」、「大穴」、「利腕」。毎回主人公は異なるが、片手のシッド・ハレーは3度登場。所属の有力馬が、次々と原因不明のままレース生命を断たれる。ハレーが調査に乗り出した。最後の10頁は普通の速さで読めないほどの緊迫感(いつも斜め読みになる)。

さて、本書の主人公シービスケットは、米国で生産・調教されたサラブレッドの競走馬・種牡馬である。著者は4年間をかけて緻密に取材・執筆した。1930年代の米国で競走生活を送った馬で、初期は不遇を託つものの、よい人脈に恵まれて以降は快進撃を繰り広げ、最後にはマッチレースで三冠馬を破るほどの活躍を見せた。競馬に必要な血統情報は略す。

はじめに騎手の減量の苦労が記述される。水制限をしたり、下剤を飲んだりしても効果がないと、最後の手段としてサナダ虫を飲んで減量を図ったらしい。100年前の競馬場周辺の様子を詳細に語られている。

レース参加直後はいつも負けるが、たまに勝ったりして、2歳にして35戦5勝した。そんな中、ハワード氏に売却となった。そこで調教師が偏屈なスミスに代わった。そして騎手も右目を失明した落ちこぼれ騎騎手ポラードに代わった。こんな3人の関わりでは好成績は望めないはずなのに、あに図らんや、シービスケットの快進撃が始まった。

快進撃は始まったとはいえ、西海岸地域は東海岸地域からは競馬に関しては軽んじられていたようだ。

馬主ハワードや馬の精神面重視の型破りな調教をするスミス、片目(外側が見えない)の騎手ポラードの連携で、シービスケットコースレコードを塗り替えてゆく。その後、戦歴を重ねながら、1938年、東海岸3冠馬ウォーアドミラル(国民の95%がこの馬を支持)とのマッチレースを迎える。ラジオの時代で、国民の関心はこのレース一色となった。大統領が競馬中継終了まで取材記者を数十分待たせてという。本書はレースを興行するまでの経緯とレース内容で読者をハラハラドキドキさせる。

そこで終わりと思いきや、左前脚靭帯を断裂したシービスケットと両足骨折で再起不能と言われたアルコール依存症騎手ポラードのリハビリを克服して、サンタアニタ・ハンディキャップ戦への最後の挑戦が始まる。再起不能と思われる傷を負いながらも挑戦をやめなかったこのチームは、当時は競馬後進地だった米国西海岸の英雄となっただけでなく、1929年から始まった世界大恐慌の影響で暗く沈んでいた米国民全体の希望のシンボルともなった。

同小説を原作とする映画も2004年に日本で公開されたが、駄作だそうだ。