Book Review 24-4歴史 #帝国と亡霊、そして殺人

 

『#帝国と亡霊、そして殺人』(ヴァシーム・カーン著)を読んでみた。

著者は、1973年ロンドン生まれ。インドミステリを多数発表している。本書で英国推理作家協会賞ヒストリカルダガー賞を受賞。

 

1949年大晦日の夜、英国から独立し共和国化を目前にしたインドで英国外交官H卿がパーティーの最中に刺殺される。その捜査を担当するのはインド初の女性警部P。なぜか被害者は腰から下は裸でズボンが見当たらない。凶器も見あたらない。やがて運転手が犯行を自白し、供述どおりに血の付いたズボンも見つかるが、Pは納得できない。この時代の英国植民地がインドとパキスタンに分断された歴史(分離独立騒動)が影を落とす。

 

本書に登場するヒンドゥー教イスラム教、女性警部Pの信仰するゾロアスター教について。

ヒンドゥー教は、インドで5億人を超えるような多数派である、インド的な複数の有神教宗派の教徒の総称である。「ヒンドゥー」の語源は、サンスクリットインダス川を意味するそうだ。インドが植民地化された時代に英国領インド帝国を支配した大英帝国側が、インド土着の民族宗教を包括的に示す名称として採用したことから、この呼称が広まった。

イスラム教は7世紀初め、アラビア半島預言者ムハンマドが天使を通じて神の啓示を授かったことをきっかけに布教がはじまった。ユダヤ教キリスト教と同じルーツをもつ一神教で、世界三大宗教の1 つである。イスラム教は唯一神アッラー)に服従・帰依する教えで、ムハンマドに啓示された神の言葉をまとめたクルアーンを啓典としている。インドから分離したパキスタンは、人口の約 96%がイスラム教徒である。

 

ドロアスター教は、世界最古の一神教善悪二元論を特徴とする。因みにQueenフレディ・マーキュリーはインド出身でドロアスター教徒である。17世紀以降、英国のアジア進出のなかで、英国東インド会社とインドのゾロアスター教徒の関係が深まり、現在も少数派ながらインド経済社会で少なからぬ影響力を持つそうだ。ゾロアスター教(善)の象徴としての純粋な「火」を尊ぶため、拝火教とも呼ばれる。今日、信者数は約10万人。

 

これまで何回も米国の身勝手さに言及してきたが、今回は英国。領土問題で英国が関わって紛争の火種を蒔いたことで有名なのがパレスチナ問題である。第一次世界大戦中に秘密協定を結んだ英国は、アラブ人にもユダヤ人にも独立国家建設を約束した。英国やフランスは、民族・宗教事情(パレスチナキリスト教イスラム教、ユダヤ教の聖地であるイェルサレムを含む地域という複雑な背景)を無視して国境を定めたうえ、アラブ人の住むパレスチナユダヤ人国家イスラエルが建国され、後の問題処理をせず管理を放棄した。両民族による対立が発生し、その対立は現在でも続いている。

 

犯人当てよりも、歴史的背景や登場人物の宗教問題への関わりに興味がそそられる小説であった。