Book Review 20-4ミステリー #ゴーン・ガール
『ゴーン・ガール』(ギリアン・フリン著)を読んでみた。著者は、米国の小説家、脚本家。
夫Nと妻Eの結婚5周年の朝。「記念日には宝探し(5か所に隠されている封筒を記憶と頼りに探す)をする」とNが双子の妹の働くバーで話している。帰宅するとEが失踪していて、かすかに荒らされた跡があったので警察に通報。その結果、Nは警察署で事情聴取され、妻Eのことをあまり知らなかったことを思い知る。この状況からして、NはEを殺したのか?
Nの行動とEの日記が交互に章を挟んで提示される。Eは殺されていないのだが、夫Nを殺人者にしたいようだ。数年かけて準備がされており、偽装失踪した後、夫Nが殺人者となるように仕組んでいることがわかる。
前半の日記を読むと、純情な妻の心情と無理解な夫の行動が浮かび上がる。
しかしながら、後半になると、話が一変する。Eは生きており、夫への復讐の話に変わってゆく。
こういうのをイヤミス(嫌なミステリー)というらしい。「イヤミス」とは「読後、イヤな気持ちになるミステリー」のこと。 後味が悪く、裏切られた気持ちになるのに読者を惹きつける魅力があるという。わが国では湊かなえ・真梨幸子・沼田まほかる、の3人が「イヤミスの三大女王」と呼ばれているそうだ。映画化されている作品も多い。
『ゴーン・ガール』は、米国のバークレーで発生した「スコット・ピーターソン事件」がモデルである。2002年12月24日、S・Pという男性から、「妻が失踪した」という連絡が警察に入る。当時妻は身ごもっており、妊娠8ヶ月だった。身重の妻がクリスマス・イヴに忽然と姿を消したというニュースは、瞬く間に全米注目の的となり、Sは一躍「時の人」に。Sは捜査に協力的だったが、言動に不審な点があることから、警察は次第に容疑者として目を向けるようになっていく。最初はSを擁護していた妻の家族だったが、彼がA・Fという女性と浮気をしていたことが発覚すると、記者会見を開いてSの支持を撤回すると発表。彼のイメージはガタ落ちし、世間は完全に「Sが真犯人」と認識するようになる。そして捜査からおよそ4ヶ月後の2003年4月13日、妻とその胎児がサンフランシスコ湾で発見され、4月18日にSは逮捕。全米の注目を浴びた裁判で、死刑判決が下されたのである(2019年5月現在、控訴中)
『ゴーン・ガール』とは「失踪した妻」という意味ではなく、「男にとって理想の“女性像”が雲消雨散してしまったこと」を表しているのではないかとある評論家は語っている。この作品は、男性の“女性に対する理想主義”を粉々にぶち壊す。『ゴーン・ガール』の本当の怖さとは、極めてシニカルで極めてドライな現実そのものなのだ。本作は、男女の結婚観の違いをシニカルに描いたブラック・コメディーだそうだ。私としては読後感がすがすがしいものを読みたいのだが・・・。