Book Review 20-2 ミステリー #8つの完璧な殺人

『#8つの完璧な殺人』(ピーター・スワンソン著))を読んでみた。

著者は米国出身。2014年に『時計仕掛けの恋人』でデビュー。『そしてミランダを殺す』、『ケイトが恐れるすべて』、『アリスが語らないことは』等がある。

 

冒頭、ミステリー専門書店の店主Mのもとに、FBI 捜査官が訪れる。Mは以前、“完璧な殺人”として知られている犯罪小説8作を選んで、ブログに掲載していた。アガサ・クリスティ作『ABC殺人事件』やパトリシア・ハイスミス作『見知らぬ乗客』等。捜査官は、それら作品の手口に似た殺人事件が続いているとして尋問に訪れたのだ。8編の内容が暴露されているので、未読者は要注意とある。本書のプロットは『#見知らぬ乗客』を模倣しているところが多い。欲張りすぎて、模倣殺人事件に集中できない。構想倒れの感あり。そこで今回は、本書を離れて、既にkindleにダウンロードしていた『見知らぬ乗客』(新訳版)を再読してみた。

 

『見知らぬ乗客』(Strangers on a Train)は、#パトリシア・ハイスミス(1921 - 1995)の長編第1作(『太陽がいっぱい』、『アメリカの友人』、『リプリー』は映画化されている)。本作は、1951年ヒッチコックが監督した映画が有名である。列車に乗り合わせた見知らぬ乗客から交換殺人を持ちかけられたテニスプレーヤーを描いている。原作では建築家であるが。

建築家Gは、浮気を繰り返す妻Mと離婚したがっていた。そうすれば今の愛人Aと再婚できる。ある日、Gは列車の中でBという男性に出会う。BはGがMと別れたがっていることを知り、Bの父親を殺してくれるなら自分がMを殺そうと交換殺人を持ちかける。GはBが冗談を言っていると思い、取り合わなかったが、ある日Bが勝手にMを殺してしまう。本書は「交換殺人」トリックの元祖というべき作品だそうだ。ミステリーというよりサスペンスの範疇に入る。

極限状況に追い込まれた人物たちの心理描写こそ本作の魅力であるから。本来であれば交わることのない関係のふたりの危うい心理サスペンスを繰り広げるとことは、現在のSNS出会い系サイトに通じるところがある(実際に殺人に発展している事例もあるようだが・・・)。

 ハイスミスは男同士の見妙な心理描写が得意とする。本書もGとB二人の葛藤を執拗なまでに追いかける。今回再読して結末がどうなるか知りえたのだが、結末を予測しながらドキドキしながら読み進めた。やたらに新作を追うよりも、古典作品を読むのもよいものと実感した。