Book Review 9-22 医療 #Remember記憶の科学
『記憶の科学』(リサ・ジェノヴァ著)を読んでみた。
著者は作家、神経科学者。世界各地で神経疾患について講演を行い、数々のメディアに出演。著書『アリスのままで』(アルツハイマー病を扱った)は世界的なベストセラー。
本書は一般向けなのでわかりやすい。本文に沿って要点をまとめてみよう。人間の脳は意味があることを覚えておくように進化した器官だ。意味のないことは忘れる。しっかり覚えておくためには、忘れることが欠かせない。記憶は覚えていることと忘れたことの総計である。
□記憶の形成は次の4つのプロセスをとる。
1)記名、2)固定化、3)保持、4)想起、である。脳内の海馬が記憶を繋ぎ合わせる。その後、あちこちに分散して貯蔵される。注意を向けるよう意識して神経に入力しないと、海馬は感覚情報を固定化できない(漫然とは記憶できない)。
□いま、この瞬間の記憶をワーキング・メモリーという。
この領域には情報を長く留めておけない。
□マッスルメモリー(筋肉の記憶)は強固で、無意識で、大脳基底核で繋げられる(自転車乗りやゴルフ・スイング等)。小脳がフィードバックを与える。海馬は全く関与していない。定着させるためには反復が必要。
□脳内ウィキペディア
脳内に記憶されているデータはすべて意味記憶である。暗記には反復と努力が必要。何度かに分けて勉強することが有効である。自問する、情報を意味のあることに変えること、語呂合わせ、視覚的イメージに変えることも記憶に有効である。
「いつ」、「どこで」と結びつく。ルーチンになっていることは忘れやすい。フラッシュ・バルブ記憶は、個人的な繋がりで、「自伝的記憶」でもある。15歳から30歳までの記憶が大半(記憶のこぶ)を占める。ルーチンからはみ出す、感じよう、記憶を蒸し返そう、日記をつける、スマホから顔を上げる、等が記憶には有効である。
□起きたことの記憶は間違っている
オリジナル記憶ではなく、変更されたバージョン記憶を再固定化し、再貯蔵する。記憶が真実とは限らない。繰り返せば簡単に嘘が定着する。
□やることリスト
あとでやらなければならないことに関する記憶を展望記憶という。手術で鉗子を体内に忘れて縫合する(私も実際に同僚のこの行動を目撃し、再縫合し事なきを得た)。チェリスト(ヨー・ヨー・マ)がチェロをタクシーに忘れる。やることリストをつくる、カレンダーに予定を入れる、予定を明確に、ピルケースを使う、絶対に見逃さない場所に手がかりを置く、日課が狂ったときは気を付ける。
□記憶の敵は時間
反復練習、意味を付加する。
□忘れられる幸せ
忘れることは極めて重要である。忘れることが「初期設定」になっている。不要となった情報は積極的に忘れる。そうしないと、大切なことが記憶できない。
□正常な老化現象
記憶システムは老化する。しかし、高齢者の意味記憶は増える。自由再生における舌先現象(もう少しで思い出せる)が起こっても、再認能力は低下しない。
□アルツハイマー病
初期では、記憶の固定化と想起に関わるニューロンのシナプスが分子レベルで破壊され、神経回路に必要な結合を阻害することで、認知症が起こる。後期には、ニューロンが死滅する。アミロイドβの蓄積が原因で、発症までに15-20年かかる。短時間での物忘れが特徴。海馬から始まり、次々に他の脳領域を侵食してゆく。失見当識。冷蔵庫に鍵が見つかるは異常。発症から末期までに8-10年かかる。
□ストレスの影響
ストレスは記憶の形成を促進するが、ストレスのかからない記憶は促進しない。だが、記憶の想起が阻害される。
□睡眠をとろう
睡眠は健康を保ち、生き残り、最高の機能を発揮するために欠かせない。
記憶の保存ボタンを押すのは睡眠である。昼寝もよい。アミロイドの蓄積を減らす。
□アルツハイマー病を予防するには
最大の発症リスクは加齢である。85歳以上では3人に1人が罹患する。地中海食(葉物野菜、ベリー、ナッツ、オリーブオイル、全粒穀物、豆、魚)が有効である。一方、認知症に赤ワインは無効、チョコレートは証拠なし、コーヒーは65%減らす、ビタミンD欠乏は2倍増やす、ビタミンB12を補うと認知症状が改善される。スタチンは発症を遅らせる。運動はよい。新しく何かを学ぶことも大切である。
□記憶のためにできること
- 注意を払う
- 視覚化する
- 意味を付加する
- 想像力を働かせる
- 設置場所を設ける
- 個人的なものにする
- ドラマを追い求める
- 習慣からはみ出す
- 繰り返しと反復練習
- 手がかりを用意する
- ポジチィブ思考で
- 外在化する
- 文脈化する
- リラックスする
- 睡眠をたっぷり
アルツハイマー病を扱った映画を検索してみた。
『毎日がアルツハイマー』:観ると元気をもらえる
『パーソナルソング』:音楽の力で記憶を呼び戻す
『しわ』:ゴヤ賞最優秀アニメーション賞受賞作
『僕がジョンと呼ばれるまで』:日本の学習療法が米国で絶賛