Book Review 21-4 家族 #笑う森

 

『#笑う森』(荻原浩著)を読んでみた。

 

著者は『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞。『明日の記憶』で山本周五郎賞、『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞受賞、『海の見える理髪店』で直木三十五賞を受賞。本書で第19回中央公論文芸賞を受賞。

 

森へ子供が入って生還する話である。さて、森に子供が入ってゆく話と言えば、グリム童話の『#赤ずきん』であろう。赤ずきんと呼ばれる女児が、お使いを頼まれて森の向こうの祖母の家へと向かう途中で一匹の狼に遭い、唆されて道草をする。狼は先回りをして祖母の家へ行き、祖母を食べてしまう。そして祖母に変装して、赤ずきんが来るのを待つ。赤ずきんが祖母の家に到着すると、祖母に化けていた狼に食べられてしまう。満腹になった狼が寝入っていたところを通りかかった猟師が気付き、狼の腹の中から二人を助け出す。赤ずきんは「言いつけを守らなかったから酷い目に遭った」と反省し、知らない人の誘いに乗らないことを誓う。時代や国によって様々なバージョンがあるようだ。著者は『赤ずきん』のどこをどう変えたのか(そして狼ではなく何に出会うのか)。

 

本書では、樹海で発達障害のある5歳児が行方不明になったが、1週間後無事に保護されるという設定である。児は「○○さんが助けてくれた」と語るのみ。どうして1週間も森に居て生存できたのかを知るためにシングルマザーである母親とその義弟が調査を始める。最初の5日間は、樹海で別々に出会った4人のワケアリの男女(人を殺して死体遺棄する女性、ソロキャンプを伝えるユーチューバー男性、カネを持ち逃げしてヤクザに追われる男性、樹海で死のうとした中学女性教師)それぞれから食べ物等を与えられ生き延びたことを知る。途中、SNSで複数人から中傷を受けて、その調査にも乗り出す。

 

本書では、SNSで他人を中傷する問題にかなりの紙面が割かれている。障害のある子どものかわいらしさや子どもへの誰もが抱く愛情がうまく表現されている。

 

タイトルに付けた「笑う」の意味が読了してもわからない。「笑う」と言えば、スウェーデン作家マイ・シューヴァルとペール・ヴァルー両人による刑事マルティン・ベック・シリーズ(全10話)の『#笑う警官』が有名。放置された一台のバスに現職刑事八人を含む死体が・・・

佐々木譲氏も道警シリーズの第一作目で『#笑う警官』を出版している。北海道警察の不祥事事件を物語の下敷きとして、警察官が警察内部の不正と戦う作品。本当は「うたう警官」だったそうだ。

 

森と道草と狼という三題噺だと『赤ずきん』となり、樹海と発達障害児と動物○○という三題噺だと『笑う森』となるか。