Book Review 16-11 人物 #犬養毅

 

『#狼の義 新犬養木堂伝』(林新・堀川恵子著)を読んでみた。

著者の一人である林新はNHKエグゼクティブ・プロデューサーとしてNHKスペシャル、大型企画を担当。近現代史に造詣が深い。そのあとを引き継いだ配偶者の堀川恵子はノンフィクション作家。本書で第23回司馬遼太郎賞受賞。

 

本書は林新氏(2017年に逝去)が小説的な形式で構想したものを、堀川惠子氏がその意志を受け継ぎ、書き上げたものである。

 

犬養 毅は1855年生まれ、号は木堂、内閣総理大臣外務大臣、内務大臣等を歴任したが、五・一五事件で暗殺される。岡山県生まれで、上京して慶應義塾に入学。福沢諭吉を師と仰ぐ。在学中に西南戦争に従軍し、「戦地直報」の記事が話題を呼んだ。1882年、大隈重信が結成した立憲改進党に入党。1890年の第1回衆議院議員総選挙で当選し、以後42年間で18回連続当選を果たす。税額によって有権者が制限されるが新たに選挙制度を立ち上げ、第1回選挙投票率は何と93.9%であったそうだ。現在と同じように選挙区調整などでも悩んでいるようだ。

 

本書を読むと、明治から昭和初期の政治の流れがよくわかる。そして、犬養 毅はお金に執着せず、選挙にお金を使わず、スケールの大きな政治家であったことがよく理解できる。今の政治家にこのような人はいるのだろうか。明治初頭に西南戦争を従軍記者として取材して、意に沿わぬまま若者に担がれて住民のために蜂起した西郷隆盛に傾倒するようになった。

 

犬養毅は1932年5月15日、総理大臣官邸で武装した陸海軍の青年将校たちの凶弾に倒れた。1929年の世界恐慌に端を発し、企業倒産が相次ぎ、失業者が増加し、農村は貧困に喘ぎ、社会不安が増大していた。政党政治は貧富の差を解消できず、国家革新を求める者(軍人)が過激化し、暗殺やクーデターに走った。

一度、引退したが国民のために再度政治の世界に舞い戻り、軍隊の暴走を止めようとしたのに、血気にはやる若者に殺害されてしまった。明治初頭の西郷隆盛と自分を重ね合わそうとしたのかもしれない。誰もあの時代の関東軍の暴走を止めることは不可能であったと思われるが・・・。

 

思い起こすに、昨今起きた安倍晋三元首相の暗殺と若手将校による犬養毅の暗殺とはその背景が違い過ぎる・・・。西郷隆盛犬養毅のようなスケールの大きな政治家の出現を期待したい。