Book Review 27-8ノンフィクション #農協のフィクサー
『農協のフィクサー』(千本木啓文著)を読んでみた。著者はJA グループの機関紙「日本農業新聞」の記者を経て、現在は「週刊ダイヤモンド」記者。農業特集「儲かる農業」シリーズを刊行。
参考までに、農協とは農業協同組合に略称で、農業者によって組織された共同組合である。農業組合法に基づく法人であり、事業内容などがこの法律によって制限・規定されている。なお、愛称としてJA(Japan Agricultural Cooperatives)と呼ぶ。(1992年4月から)
京都の農協を支配し、「京都のドン」と呼ばれる政治家野中広務とバトルを繰り広げる。本書は中川泰宏の悪事を執拗に暴くノンフィクションである。どこにでもいそうな子悪党(はじめは大悪党と呼んでいたが)を執拗に追い回す著者の執念はどこから来るのだろうか。
前半は農協を舞台にした悪事の数々の暴露が中心で、後半は中川泰宏と野中広務との政争の成り行きが語られている。両者とも差別された怨念で生きていると言われる存在である。野中広務は被差別部落出身者であり、中川泰宏は小児麻痺による身体障碍者である。私の小中高時代には学年に一人くらい小児麻痺の生徒がいた。
中川泰宏の悪事は、まず「コメ産地偽装疑惑」。汚染米をブランド米に混ぜて売った。京都農協のトップに昇りつめると恐怖支配を敷いて「農協労組潰し」を行った。ファミリー企業による悪質な不動産取引で大儲け。強引な京都の「農家数水増し」による統計のごまかし。同和問題を改革する(補助の見直し)と唱えながら、逆に同和事業補助金を不正に取得した等。
その他、北朝鮮支援を頼まれたとき、勝手に拉致被害者返還交渉を行い一躍中央政界に名をとどろかせる。それで小泉純一郎に認められて国政に参加する。これが野中広務の怒りを買うことになった。
後半で、国政選挙で敗北してからは政治家から「黒幕」に転身し、中川と野中の泥沼化した政争を活写する。選挙の結果がどうなったかは、他人事ながら興味深い。農業版「桜を見る会」とも著者が称する海外宮殿での晩餐会についても問題であると捉えて言及している。
政治の世界での醜い生存競争といい、農協に君臨しての悪事の数々といい、差別された男の怨念で生きている生き様を、著者が怨念を持って書いたと感じさせるノンフィクションである。中川泰宏が書いた本も読まなければ公平ではないかもしれないが・・・。どうもそんな気にならない。(今回はあえて敬称を略した)。