Book Review 4-2 日本企業 #トヨトミの世襲

著者は梶山三郎氏。経済記者で、トヨトミシリーズを書くために覆面作家となっている。シリーズ前作に『#トヨトミの野望』、『#トヨトミの逆襲』がある。本作はその「完結作」と謳っている。

昨今、トヨタグループで認証不正問題がマスコミを賑わしている。トヨタ自動車の会長が2024年1月30日の記者会見でグループの現状に危機感を示し、自ら改革の先頭に立つ考えを示した。不正の背景には、各社がトヨタの世界戦略についていこうと無理を重ね、現場の負担が見過ごされたことがある。トヨタグループは現場を第一とする原点に立ち戻り、立ち直ることができるのか。(毎日新聞から抜粋)。

前作、前々作である『トヨトミの野望』と『トヨトミの逆襲』は、小説という形で、創業家が語る「神話」の裏側を描いた。巨大企業の運営が想像を絶するほど大変であることがわかる。それが世襲で凡人に回ってきて、巨大企業のかじ取りができず右往左往している様子が描かれる。政治工作や女性関係など次々登場する。『トヨトミの逆襲』では、主人公が創業家の御曹司であり、話は2016年からはじまる。IT企業トップも登場し、車製造とIT会社の未来社会に対する展望の違いが浮き彫りになる。一流企業であっても、ドロドロの権力闘争が繰り広げられていることなど珍しくもないだろう。この小説は組織が機能不全に陥るのを食い止めている企業のぎりぎりの経営努力の現場が描かれている。

本書は、世界中を襲った未曾有のパンデミックのなか、巨大自動車会社トヨトミ(トヨタ自動車のこと)も待ったなしのEV(電気自動車)シフト転換を迫られていた。しかし、販売ディーラーの相次ぐ「不正事件」や持ち株比率たった2%の創業家の「世襲問題」など暗雲が垂れ込める。

本書の肝は、企業を存続させるには、世襲がよいのか、優秀な人材のヘッドハンテングがよいのかを考えることであろう。気になるのは、世襲する若者が一律に未熟で傲慢な人物として描かれており、優秀な人材を狙う経営者は己の実力を過信し、後継者に指名した人物に指揮権を移譲できない精神構造をもつ者としていることである。余りにもステレオタイプ化している。

 前作に登場したIT企業トップも海外投資に失敗して巨大な赤字を計上したことをマスコミが報道している。巨大な組織を維持することは想像を絶するほど大変なことなのであろう。小さな組織のトップしか経験したことがない(潰さない・潰されないことが目標)私は、その点幸せだったのかもしれない。