Book Review 16-14 人物 #福沢諭吉

 

『#福翁夢中伝』(荒俣宏著)を読んでみた。

著者は、日本の博物学研究家、図像学研究家、小説家、収集家、神秘学研究家、妖怪評論家、翻訳家、タレントと多彩な肩書を持つ。多分野の大学客員教授となっている。NHKの『COOL JAPAN』とコメンテーターとして時々顔を出す。慶応義塾大学卒業。

 

福沢諭吉についてのまとまった書籍を読んでいないので、咸臨丸で渡米したこと、不偏不党の新聞『時事新報』創刊したこと、そして慶應義塾の創設と教育改革をしたことくらいしか知らない。そんな者には、多くの登場人物がナレーターとなるという本書の手法は、福沢諭吉の業績や活動を知ることを難しくさせている。

 

同時代を生きた勝海舟北里柴三郎川上音二郎等との交流については、もう少し知りたく思った。医師という私の経歴から、福沢諭吉北里柴三郎との関係は興味深かった。官立大学(特に東京帝国大学)嫌いな福沢諭吉はドイツから帰国後政府や大学から冷遇される北里柴三郎に援助の手を差し伸べて、北里研究所を設立する。

この時代陸海軍を揺るがした脚気論争にも関係する。主には陸軍の森鴎外と海軍の高木兼寛(慈恵医大の創設者で、南極半島に「高木岬」がある)の論争となる。海軍は高木兼寛の指導で麦飯を導入し脚気を著減させたが、陸軍は森鴎外東京帝国大学派)の白米への拘りから日清・日露戦争の戦死者は敵弾によるものよりも「脚気」による死者のほうが圧倒的に多かったと言われている。この点については吉村昭氏の『白い航跡』や海堂尊氏の『『奏鳴曲 北里と鷗外』に詳細に触れられている。 

 

川上音二郎の海外での活動についての記述も興味深い。彼が唄ったオペケぺ節はYouTubeで聴くことができる。

 

本書には、慶應義塾を潰さずに維持するために苦労した話にかなりの紙面が割かれている。福沢諭吉の人生を深く知りたい読者にはこれまでの書籍を読むことをお勧めする。私も「福翁自伝」でも読んでみるか。