Book Review 20-5ミステリー #Iの悲劇

 

『#Iの悲劇』(米澤穂信著)を読んでみた。著者は2001年、第5回角川学園小説大賞奨励賞を『氷菓』で受賞。『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞、『満願』で第27回山本周五郎賞を受賞。

 

『〇の悲劇』と言えば、エラリー・クイーンが書いたドルリー・レーンを探偵役とする「悲劇」4部作が有名である(『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『Zの悲劇』、『レーン最後の事件』)。今回のタイトルはそれに肖(あやか)っているのであろう。では「I」とは何か。寂れた地区に人を呼び戻すためのIターン支援プロジェクトの「I」である。

 

何が悲劇なのか。山あいの小さな集落M地区に折角移住してきた住民が最終的にいなくなってしまうからである。そのことが短編を集めて綴られている。最後の文章は「そして、誰もいなくなってしまった」である。(アガサ・クリスティの長編推理小説の題名)。

 

物語は限界集落M地区に市長の肝いりでIターン支援プロジェクトが実施されるが、その担当者は3人(主人公と覇気のない課長と新人)。出世を期待する主人公とやり手という前評判の課長。彼らが向き合うことになったのは、一癖ある移住者たち。彼らの間で次々とミステリアスな問題が発生する(連作短編集)。各編が終わると謎は解決されるが住民はM地区をそのたびに去ってゆく。その謎解きで「ミステリー小説に分類されるだろう。

 

背景に金欠の自治体の運営をどのようにすればいいのかという問題が潜んでいることがわかる。過疎地のインフラや除雪をどうするのか(札幌市でさえ、オリンピックよりも除雪にカネを使えという声が大きかった)。

 

最終章でちょっとしたどんでん返しが待ち受けている。謎は北村薫氏風(日常に潜むちょっとした謎)である。本書を読むことで、謎解きを楽しみながらも、限界集落の抱える問題に触れる機会になるかもしれない。