『#感染症の歴史学』(飯島渉著)を読んでみた。著者は青山学院大学文学部教授で、専攻は医療社会史、感染症の歴史学が専門。
本書の目的は、新型コロナのパンデミックを歴史化する試みとある。本書で扱うのは4つの感染症で、新型コロナ、天然痘、ペスト、マラリア。はじめに21世紀になってから流行したSARS (2002-2003年)、新型インフルエンザ(2009年)、MERS(2012年)を振り返る。
新型コロナを含めてこれらの感染症は、開発によって生態系への介入が進んだことによって引き起こされた「開発原病」であるとしている。この視点で描かれているものとしては映画『コンテイジョン』(スティーブン・ソダバーグ監督、2011年)で、私のお勧め作品である。感染発症第2日から映画は始まり、最後に戻って第一日が提示される。未開の原野の開発が進み、中国と思われる国で野生の動物を食べた観光客が倒れてゆく。(実習に来た研修医・医学生にはこのDVDを貸し出している)。
武漢での新型コロナでロックアウトに遭遇した方方氏の日記から、強い国とは、「弱者へのまなざしを大切する」という言葉を引用している。「隔離されるのはウイルスだけではなくて、ヒトもその対象とされる。」も。2019年の中国での新型コロナ患者発生から、2023年5月(感染症法上の分類が5類に移行)までの日本のことがまとめられている。
天然痘について。撲滅に成功した唯一の重大感染症として、太古から撲滅までの世界と日本の歴史が書かれている。種痘についても詳細に書かれている。
ペストについて。ペスト感染は現在でも起こっている。私は新型コロナの流行最盛期に本屋に平積みになった『ペスト』(アルベール・カミュ著、1969年)を再読してみた。(ペストが発生し、外部と遮断された孤立状態のなかで、逃げ出さす、そこに残って闘う主人公リウー)。ついでに富士山麓で肺ペストが発症したという想定で描かれた『リウーを待ちながら』(朱戸アオ著、2017年)を読んだ。(菅義偉首相に日本学術会議の新会員任命を拒否された歴史学者加藤陽子氏が推薦)。このマンガは、地域医療実習に来ている研修医・学生に毎回貸し出しているが大好評である
マラリアについて。マラリアは歴史上重大な感染症である。以前のBook Reviewで『#蚊が歴史をつくった』(ティモシー・ワインガード著)を紹介した。戦争や政治、移動、交易、人間による土地の利用方法等への蚊の影響に言及している。一時、減少したが新型コロナの流行で、復活しているようだ。
新型コロナ感染の猛威も収まりつつあるが、この4年間は何だったのかという記録や考察を残すことは大切や仕事となろう。