Book Review 24-12歴史 #科学文明の起源

 

『#科学文明の起源』(ジェームズ・ボスケット著)を読んでみた。

著者はウォーリック大学准教授。科学技術史が専門。2012年には英国科学作家協会による最優秀新人賞を受賞している。

 

本書は発想が卓越している。なんとヨーロッパ中心に科学が発展してきたという歴史は間違っているというのだ。これまでの言説は「フェイク」であり、近代科学の発展にはキリスト教よりもイスラム教の方が先陣をきっており、中南米(インカやマヤ)、アジア(中国、日本)、アフリカなど、世界中の人々による著しい貢献の結果であるというのだ。

コペルニクスガリレイニュートンダーウィンが大発見をしたようにこれまでの科学史は述べているが、実はイスラムや他の文明では凡そ築かれていたことを彼らが言葉にしたに過ぎないというのである。科学の発見・発明は様々な大陸を越えた文化が交流し、様々な文明の科学者たちの成果の積み重ねの結果であるということである。コロンブスが新大陸(ヨーロッパから見て)に出会う前には、ヨーロッパの学者は古代ギリシアやローマの文書に依存していた。征服者や宣教師たちが、新大陸(インカ、マヤ)の科学的知識に触れて変革を引き起こしたというのだ。ダーウィンの『種の起源』も目新しい点はなかった(生存競争という概念が目新しかった)。

 

最後に、著者は科学の未来に警鐘を鳴らしている。「共通の人間性」を模索するはずであった遺伝学は、ヒトゲノム計画が完了した後の各国民ゲノム計画は民族主義に向かい、グローバリゼーションとナショナリズム、言い換えると、政治やイデオロギーによって差別や民族抹殺を引き起こしかねない危険があるというのである。

 

本書には江戸から明治・大正の日本人や日本の関わった情報が多数記載されている。すべてを読破するには労力を要するが、各章の最後に「まとめ」があるので、時間に制約のある者には助けになろう。久しぶりに出会った驚くべき書であった。