Book Review 15-20 時代小説 #母子月

 

『#母子月』(麻宮好著)を読んでみた。著者は2022年、『恩送り 泥濘の十手』で第1回警察小説新人賞を受賞。

 

話は、「母子月」公演中に歌舞伎の女形(初代瀬川路京)が毒殺された場面から始まる。犯人は誰なのか。捕物帳のように十手持ちは出てこない。しかし、ミステリー(犯人探し)ではある。もう一つの魅力は、歌舞伎に魅せられた男(二代目瀬川路京)の芸の思いに迫る物語でもある。

 

時が流れて、子役であった男児女形の歌舞伎役者・二代目瀬川路京を襲名している。芸に命を捧げるが結果が付いてこない。

そこで、路京は座元と帳元の強い勧めもあり、現状打破のため、因縁の演目である初代が毒殺された「母子月」を打つことにした。子役として自身も出演した因縁の公演を前にして、初代殺しを疑われた者たちが集まってくる。真の下手人は誰なのか?初代はなぜ殺されてしまったのか?

 

歌舞伎における女形は、娘・姫・女房など、中年以前の女性の役を演じる。現在では「男が女を演じる」と解釈される場合が多い。原義からすれば「女方」との表記がふさわしい。歌舞伎では通常「おんながた」と読む。歌舞伎界で最高峰の立女形(たておやま)といい、現時点では坂東玉三郎さんだそうだ。

通説によれば、歌舞伎の創始者とされているのは女性である。元服前の少年たちによる『若衆歌舞伎』も盛んになったが、売春や客同士の刃傷沙汰が絶えず、風紀・風俗を乱すという理由で幕府に禁止された。そのため女性を演じる男性俳優が歌舞伎の世界に登場した。江戸時代の女方は芸道修業のため、常に女装の姿で女性のような日常生活を送るものとされていた。

 

歌舞伎については詳しくない。一度、恩師に勧められて妻と一緒に歌舞伎座に行ったことがある(演目は忘れてしまったが)。本書の内容はそれほど興味のある分野ではないが、ついついページを捲ってしまう。これも作家の芸なのであろう。